第3話

 気が付けば教室には俺ともう一人の女生徒以外誰もいなくなっていた。

 今日の授業がすべて終わっていたのだ。


「ん」


 そしてそのもう一人が声をかけてくる。


「行こ」

「もうそんな時間か」


 俺はカバンを持ち、席からやおら腰を上げた。

 これから彼女の家に向かうのだ。


「……」

「だいぶ過ごしやすくなってきたよな」

「……」

「そう言えば昨日、妹がさ……」

「……」


 彼女は無言のまま教室を出て、無言のまま学校を出る。

 口は無言なのとは異なり、彼女の歩く姿はとても雄弁で美しかった。今日は比較的元気だ。


 彼女はモデルをやっているのだ。

 去年はTGC?とか言ったかな。とにかく大きなイベントで話題になっていたらしい。


 彼女との会話を楽しんでいるとあっという間に彼女の家に着く。

 相変わらず無言のまま慣れた様子で家に入っていく。

 俺はまだ若干の緊張感を抱えて家へと入る。玄関を見ると、どうやらいつものようにご両親は不在のようだった。


「ん……」

「わかった先行ってる」


 彼女の許可を得て、彼女の自室へと向かう。


「また増えたのか」


 広めの一室。彼女の部屋には大きな特徴がある。

 中央にローテーブルがあって、おおむねシンプル。特別とっ散らかっていることはない。

 だが、部屋の隅に目をやると、大量のファンシーなぬいぐるみがあった。

 妹の部屋にもいくつか俺がプライズキャッチャーで獲ったぬいぐるみがあったが、この部屋は異常だった。

 そして先週来た時よりもぬいぐるみの数が二体ほど増えていた。

 ローテーブルの前のクッションに腰を落ち着けるとまもなくして彼女がやってきた。


「ん」


 彼女は水が入ったグラスを持ってきた。

 渡されたグラスを一息に飲み干して、俺は正面に座った彼女に改めて向き合った。


「じゃあ早速始めるか」

「ん」

「じゃあ今日は数学からな」


 彼女とは普段から勉強を教える仲だ。

 コミュニケーションが苦手な彼女とコミュニケーションをとれる人物は貴重で、モデルの仕事で授業を抜けがちな彼女に勉強を教えられるのが俺だけだったからだ。

 二人で数学のノートを開く。彼女は昨日や住んでいたからまずはそこの説明からだ。


☆☆☆


「ふぅー」


 数学、英語と進めていき、ひと段落着いた。


「今日はこれくらいにしておくか。他の科目のノートは置いてくから写し終わったら明日教室で渡してくれ」


 後は主要科目では日本史と国語か。

 今日の夕食当番は俺だしスーパーによらなきゃな。そう思い、腰を上げてドアに向かうと、背中から手が伸びてきた。

 振り返ると彼女が迫っていた。

 壁ドンというやつだ。


「今日はどうした」


 彼女からの壁ドンは慣れたものだった。


「今日、どうしたの」


 帰ってきたのは同じ言葉だ。


「今日? あー、やっぱり今日の俺、おかしかったか」

「ん」

「実は……」

「?」


 いや、どう説明すればよいんだ? 妹に恋愛感情を抱かれているんだ、と真実を伝えるか? いや、妄言だと思われるだろうし、妹との兄妹関係について知っている幼馴染以外にはあまりこの話はしたくない。


「ん」


 言い淀んでいると今度は俺の股に彼女のすらりとした足が入ってくる。

 モデルをやっていて身長が高く、足も長いため、彼女の柔らかな太ももがスカート越しに俺の股間にあたっていた。


「その……」


 いつもよりもさらに大胆な彼女の様子に照れてしまい、つい目をそらしてしまう。

 その対応が良くなかった。


「ん!」


 今度は彼女の手によって顔を正面に向けさせられる。


「くっ、妹とな、いろいろあったんだよ」

「妹? ……そっか」


 すっと彼女は体を離す。

 危なかった。もう少しで理性がどうにかなっていたかもしれない。


「妹、妹?」

「じゃあ俺帰るから。心配してくれてありがとな」

「まって」


 ドアを開けようとすると、彼女に腕をつかまれる。


「え?」

「ん」


 振り返らせられて彼女の顔が近づいたと思った時には、避ける間もなく彼女の唇が俺の頬にあたる。


「また、ね」

「ああ……また明日」

「ん」


 彼女の家を出ると、もういい時間だった。

 帰りすがらによったスーパーで買い物をしている間も、俺の頬の熱はおさまらなかった。

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世界一可愛くなるように育てた妹が俺と恋愛? 深夜まひる @shin-ya-mahiru

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