第2話

 妹と恋愛。これは全世界の兄貴を代表して許されるのだろうか。

 俺は妹に結婚を懇願されたときに結婚できる。間違いなくそう言い切れる。

 なぜなら、俺の妹はまさに完璧な理想の妹だからだ。

 しかし、だからこそ悩んでしまう。

 自己肯定感が低いから? 違う。俺は妹の課題を何でも解決できる不可能のない、言ってはなんだが妹にとって自慢の兄貴のはずだ。

 だが自慢の兄貴ゆえに、妹との恋愛をこれまで考えてきたことがなかった。そして最適解を瞬時に考えられなかった。最高の兄貴のジレンマといったところだろうか。


「うがーーー」

「朝っぱらからどうしたの?」

「はぁー、よく聞いてくれたよ、わが幼馴染」


 学校への道すがら、いつもの登校メンバーの一人である幼馴染(当然あと一人はマイシスター。中高一貫のため、行先は同じだ。今日はなぜか後ろでテコテコ歩いていてかわいい)が気遣ってくれる。

 俺はちょいちょいと妹にばれないように幼馴染を手招きする。


「ここだけの話なんだが」

「うん」

「兄妹で恋愛ってどう思う?」

「ふん!」


 カバンでの強烈な一撃が俺の尻を襲った。


「痛ぇ! なんだよいきなり!」

「いきなりはあんたの方でしょ! はぁー、ついにここまで来ちゃったか」

「違う! 合法なのはお前も知ってるだろ」


 幼馴染には俺たち兄弟の事情は伝えてあった。それこそ1年前、俺が15の誕生日を迎えたときに俺から伝えた。


「それはそうだけど、あんたがそれで妹ちゃんを狙わないって信じてたのに、なんてこった……」

「それも誤解だ! 俺が狙っていたわけじゃなくて。その、なんだ」

「なるほどね。昨日は妹ちゃん、誕生日だったもんね。それで例の件を伝えて、か」


 幼馴染は落ち着いた様子で振り返って妹をジーっと観察する。


「いつもよりぎこちない髪のセット。普段の完璧な様子とは若干逸脱した落ち着かない様子……やっぱりヤッた?」

「ンなわけあるか!」

「そう言えば昨日は誕生日なのにやけに静かだったよね。例年、一家そろって大騒ぎなのに」

「ああ、一家そろっての大騒ぎは親父とおふくろの都合のいい日に予定を変えたからな。どんちゃん騒ぎはしばしお預けだ。それに、昨日はなぜか妹が部屋に引きこもってしまってな」

「引きこもる? あの元気な妹ちゃんが?」


 幼馴染の疑問はもっともだ。普段ノリの良い元気な妹が引きこもるなんて、めったにないことだった。


「ああ、俺にもなぜかさっぱりわからなかった。けど、朝あったことで察してしまった」

「というと?」

「俺の妹が俺のことを好きだってこと」

「それはいつものことでしょ」

「そうじゃなくて、恋愛感情を持っているってこと」

「はぁー、なるほど」


 幼馴染は空に向かって大きなため息を吐く。そして、いつものようにしたり顔でこういうのだった。


「妹ちゃんに誘われてまんまとヤっちゃったのね。この助兵衛が」

「だからそうじゃないって言ってるだろ!」


 俺の叫びはぼんやりとしている妹へは届かず、空へと消えていった。

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