世界一可愛くなるように育てた妹が俺と恋愛?

深夜まひる

第1話

「誕生日おめでとう」

「ありがとう兄さん」


 俺の妹は可愛い。というか妹がかわいくない兄なんてものは俺にとって甘えだ。俺は自分にとって最高にかわいい妹を育成してきた。それこそすべてをかけて。


「時に妹よ」

「なんだい兄者」


 そんな妹とこんな気さくなやり取りをするのは今日が最後かもしれない。

 だが、一つの決意を胸に俺は事実を伝えることにした。


「実は俺たちは血のつながりがない」

「なに!」


 流石の妹も驚きのあまり飛び上がっている。


「血のつながりがないってことは、血のつながりがないってこと?」

「そうだ、血のつながりのないってことだ。俺たちのそれぞれの両親は違う。俺の親父とお前の母親が再婚して同居していただけなんだ」

「そんな……」


 大げさに肩を落とす妹。こんなに落ち込むとはやはりまだ伝えるには早かったか。せめて5年後、二十歳くらいでもよかったかもしれない。


「つまり、兄さんに何の憂いもなく寄生していられるのも今日で終わりか……」

「そんなことはない! 俺たちは変わらず仲良し兄妹のままで良いじゃないか」

「それはもうできないよ。兄さんと私の関係は決定的におかしかったんだから」


 のそりと立ち上がった妹は、誕生日の主役にふさわしいレイと帽子をかぶったまま自室へと向かってしまった。


「おお、妹よどうしてお前は義妹だったんだ」


☆☆☆


 翌日。

 いつものように起床して、いつものように家族の朝食を準備する。

 家族はみんなご飯派だから、メニューは白米に味噌汁にベーコンエッグだ。

 人数分のベーコンエッグを焼いている最中、いつもは聞こえないはずの足音がする。

 この羽毛のような足音は間違いない。


「おはよう、妹よ今日は早い……どうした!」


 妹は制服を着ていた。

 いつもは寝巻のまま降りてくるというのに、今日はしっかり制服で。しかも髪もおそらく妹なりにはバッチリとキメていた。


「そんなに驚かなくても。兄さん昨日言っていたじゃない私たちの関係性が変わるようなことを」

「つまり、俺に髪をとかされたり、朝の準備をされるのはもう嫌ってことか……」

「嫌ってわけじゃないけど、実の兄妹じゃなければそんなにお世話されるのはおかしいんじゃないかなって」

「そんな……」

「ごめんねほんとはもうちょっと早く起きて朝ごはんのしたく手伝おうとしたんだけど、髪型がなんかうまくいかなくて」

「じゃあ兄ちゃんが直してやるよ」

「いいよこれで。これがいいの」


 妹は少し顔を赤らめていた。やはりそんなに嫌だったのか。


「時に兄さん。いや、義兄さん」

「なんだい、義妹よ」

「今日の私はどうですか?」

「? どうとは?」

「だから、可愛いかってこと。察してよ、もう」

「いつも言っているが世界で一番かわいいぞ」

「それはどういう意味で?」

「どういう意味って?」

「隣のお宅の幼馴染のお嬢さんとか、最近クラスで勉強を教えたり仲の良いモデルのあの子だったりとか、そんな子たちに抱いている感情は抱いている?」

「何を言いたいんだ? 妹は神聖な存在。比べるに値しないではないか」

「だからもう妹じゃないから、恋愛感情とかはないのかって聞いてるの!」


 この時の俺はまさにハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていただろう。


 世界一可愛くなるように育てた妹が俺と恋愛?

 それはまるで、これまで最高にかわいい妹を育ててきた自分へのご褒美みたいなものだった。

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