人間である私と

@niwatori_chicken

第1話

私は今体操をしています。この動きで宇宙に接続していきます。健康な人類は味がわかるけれど、一般の宇宙人には味が分からない。したがって人間はウェブ上で美味しい店のやり取りをするけど、宇宙人にはそれができない。憎いんです。だから宇宙人は人間と交信しようとしないし、逆に味の分からない人間の私とは快く対話してくれる。はい、情報料は100円ですよ。


さて、私が宇宙人と交信を始めたのは、去年の9月のことでした。私はそのとき人生で初めて、"水の入ったボウル"に屈服したんです。そのときの手記が残っていますから、そのときの感じたままを少し話してみましょうか。その話は、私が昼寝中に夢を見ていた時から始まります。


 


ここにボウルがある。それはまるで真球に押し当てて象ったような丸みを帯びているボウルで、私はそれを前に座っている。覗き込んで見てみると少々水が入っている。ボウルを持ち上げて遊んでみる。水の動きは全て私の操作に委ねられていて、私がボウルを傾けると、水は当然重力にしたがって下方へ流れる。


目が覚めると私は布団の上にいた。そして私はその水の流れ方を確かめようと思った。水が重力にしたがって流れないこともあるというのはもちろん可能性としてはあるだろうが、それでも水は必ず重力の作用を受ける。水の操縦不可能性など考えたことはない。なぜなら私は人間だ。ただの動物ではないんだ。


さて、ボウルを取り出して蛇口を少し捻って少々の水を注ぐ。ボウルを持ち上げて傾けてみる。私は水の動きに注目した。大きな水滴が下方へ流れてゆく時、薄い水滴が通り道に残される。この種の水は丸くありたいようで、時間とともに丸くなっていく。いいや、これは操縦不可能性とは違う。違うんだ。私をさらにいらだたせるような挙動。悪いのは明らかに水だ。そうだ、これは水が勝手に暴れたんだ。もう一度やれば上手くいくだろう。重力にしたがって流れた大多数の水を動かしてそれを取り込んで、それをまたゆっくりと傾けて元の位置に戻してやる。ほらね、水は重力に従うんだ。満足して机に置くとまた一部の水が通り道に残った。私は激怒して水滴をいきなり垂直にして飲み干した。しかしそのつもりが、薄い水滴がまたボウルに残っているのを見て、私はとうとう降参した。


 


この直後、キッチンで項垂れる私の耳に、ある不思議な声が聞こえてきたんです。私はあの時、"モノに屈服した人間そのもの"でした。この後の話が気になりますか?しかし、今日はここまでとしましょう。あなたはたった一日の内に知りすぎました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間である私と @niwatori_chicken

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る