魔の交差点
香久山 ゆみ
魔の交差点
気付けば、柳田和雄は交差点の真ん中に立っていた。
それは異様な状況だった。柳田の立っているのが、たくさんの車が行き交う幹線道路の交差点のど真ん中だったからだ。今も柳田の周りを車がびゅんびゅん走っていく。柳田は狼狽した。とりあえず歩道まで出ようとは思うが、止まることなく車がやってくるため、身動きが取れない。
程なくして歩道に出ることを諦めた柳田は考えた。皆まるで俺のことを無視して車を走らせている。まるで俺なんか見えないように。そうして柳田は一つの仮説に辿り着いた。
俺は、幽霊なのではないか。
自ら出したその仮説に、柳田はぞっとした。しかし、それを証明する手段がない。本当に幽霊なのなら、車の前に飛び出せば、車が体をすり抜けていくかもしれないとも思ったが、万一のことを考えると恐ろしくて足を踏み出せない。
幸いにして、柳田の立つ位置は、交差点のど真ん中でありながら、ちょうど左折車も右折車も通らない死角になっているようだ。身動きの取れない柳田は、仕方なく状況を整理することにした。
まず、俺が幽霊だとして、なぜ死んでしまったんだろう。記憶を辿るが、まるで思い出せない。周囲の景色から記憶が甦らぬものかと、辺りを見回す。と、花の一本も供えられていないことに気づく。柳田は舌打ちした。皆なんて薄情なんだろう。……いや、待てよ。
もしかして、俺は死んでいないんじゃあないか。
柳田の心に小さな希望が生まれた。そうだ、生霊という可能性もあるのではないか。事故に遭った俺の体は、意識不明のまま病院のベッドに眠っているのだ。考えつくと、もう居ても立ってもいられなかった。自分の体を探さなければならない。しかしどうやって? 柳田の記憶はやはりまるで戻ってこなかった。
柳田は考えた。そして閃いた。
そうだ、ここで事故を目撃すればいい。そうして、ここで事故に遭った人間がどこの病院に運び込まれるのかを確認すればいい。柳田の口元に決意の笑みが浮かんだ。
顔を上げると、交差点の向こうの歩道から、小さな少女が不思議そうな目でこちらを見ている。少女には柳田の姿が見えるようだ。柳田は少女に見かって、静かに手招きをした――。
魔の交差点 香久山 ゆみ @kaguyamayumi
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