ホームレスのお願い

不労つぴ

ホームレスのお願い

 あれは夏の暑い日だった。当時僕はまだ高校生で、お盆に開催される親戚の集まりのため、祖母宅まで向かっていた。


 自転車に乗って祖母の家まで向かっていると、古びたリュックを背負って、色のあせた服を着たおじいさんに話しかけられた。


「すみません、お兄さん。〇〇はどの方面に行けばいいですか?」


 おじいさんが言った場所は、今いるところからこのまま直線で進めばよかった。しかし、そこまでの道のりは結構な距離があった。


 僕は「このまま直進すればいいですよ」とおじいさんに言う。


 すると、おじいさんは「ありがとうございます」と言った後、僕の目をじっと見つめて言った。


「実は私、隣県から飲まず食わずで歩いてきたんです」


 僕は耳を疑ったが、確かにおじいさんの来た方角は隣県の方面だった。


「ですが、私は今お金がないんです。ですから、私に千円以上恵んでいただけないでしょうか」


 おじいさんは僕に財布の中身を見せる。おじいさんの言う通り、財布の中身はスカスカだった。


 僕は考える。確かに、目の前のおじいさんは困っているのだろう。だが、高校生にとって1000円は大金だ。それに、うちはお小遣い制ではなかったので万年金欠だった。


 財布の中身をチラリと見ると、5000円札1枚と1000円札1枚、500円玉が1枚入っていた。このまま千円を渡すべきか考えたが、その時の僕には欲しいものがあり、渡すべきか非常に悩ましかった。


「お願いします。昨日から何も食べてないんです」


 目の前の老人は必死に懇願する。僕は悩みに悩んだ挙げ句、「財布これしか入ってなかったんで」と老人に500円玉を手渡す。


 今思えば、人の命より自分の欲しいものを優先するなんて、その時の僕は血も涙もないやつだったと思う。


 おじいさんは、500円玉を見て、残念そうな顔をした後「あっ、それならいいです」と受け取るのを拒否したが、僕は無理やり押し付けた。おそらく、おじいさんは1000円札が欲しかったのだろう。


 この後、どこかで倒れられても僕の目覚めが悪くなる。500円あれば半日は生き延びられるだろうと言う僕の判断だった。


 おじいさんは僕に礼を言う、僕はおじいさんに「この先もお気をつけて」と言ってからその場を去った。


 この後、親戚に嬉々としてその話をしたが、「つぴは不用心すぎる」と逆に説教を食らってしまった。また、友人にもこの話をしたが、「見ず知らずの人に金を渡すなんて、つぴちゃんはどうかしている」とまたお叱りを受けた。


 僕が「これで倒れられたら僕が悪いみたいで嫌じゃん」と抵抗すると、「それはつぴちゃんの考えることじゃなくて、そのおじいさんの自業自得」と言われてしまった。


 僕的には(500円だったとは言え)いいことをしたので褒められる――と思っていたのだが、予想と反して周囲の反応は違った。


 やはり僕が間違っていたのだろうか。。

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