鼠の死体

白川津 中々

◾️

車に轢かれたであろう鼠の死体があった。


死んでからまだ時間が経っていないようで、赤白い臓物が瑞々しく光っている。それを見た、犬を散歩させている女は、明らかに嫌悪した表情で足早に去っていった。


彼女は自分の犬が同じように轢死して内臓が零れたらどうするか。高そうな衣装を着ていたから、悲しみにくれて腸を掻き集めたりはしないだろうなと勝手に思った。


死体は俺も嫌いだ。気持ちが悪い。精神的な嫌悪感がある。事実、鼠の死体を見て「嫌なものを見た」と思った。祖父が死んだ時に寝ずの番をしていたのだが打ち覆いで顔を隠されていてもやはり汚いように感じ、なるべく死体を見ないようにしていた。受け付けないのだ。人間で、綺麗な遺体でこうなのだから、体内のものが出ている鼠の死体などなおの事嫌に決まっている。


しかしその鼠が俺にとって大切なものだったら、ペットや、それ以上の感情を抱いていたら、死体を拾い上げて丁寧に供養してやろうという気持ちが沸くのだろうか。また、家族や恋人が肉片になったら、それに触れられるのだろうか。


恐らく、無理だ。俺だけじゃない。あの犬を連れた女も多分、そんな真似はしないだろう。


俺もあの女も同じな気がした。話してもいないのにそう決めつけた。そうであってほしいのだ。俺だけが非道ではありたくない。皆、薄情でなければ俺ばかりが悪となってしまうから。




もし、俺が死んだら……




その先は、考えない事にした。

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