◆番外編 ピュアブライトリング 5
エリアさんが決闘開始を宣言した直後、ヴィクトリアが突進してくる。
「食らえ! 剛砕爆斧!」
見た目よりも速い突進の勢いをそのままに斧を上段から振り下ろすシンプルだが強力な技。
上級に分類される技でまともに当たれば斧の重量も相まって岩すら両断される。
それを僕は正面から見据え、メタルブレードを手放した。
「諦めたかっ! だがもう止められないぞ!」
僕はそれには応えず、素早くヴィクトリアの斧の下に潜り込んで斧の刃を両手で横から掴んだ。
「なにいっ!?」
僕が行ったのは剣で言うと真剣白刃取りだ。
そんな技術はないので、ただただ腕力に任せて斧の動きを止めただけだが。
「くっそ…… 動かねえ…… バカな!」
もともと腕力のステータスで僕はヴィクトリアさんを上回っていた。
そこへ【弱者の維持】が発動してステータスがさらに上昇しているのだ。
これくらいわけない。
あの盗賊たちに感謝だな。
そして、斧を掴んだままヴィクトリアごと僕の頭上へ持ち上げ、斧を手放さないのでそのまま地面に叩きつけた。
「あぐっ……」
闘技場の石畳が人型に陥没する。
僕は力が入らなくなったヴィクトリアから斧を取り上げ、顔に突きつける。
「そこまでよ!」
ここでエリアさんから決闘の終わりが合図される。
ヴィクトリアは地面に叩きつけられたダメージで起き上がれず、素直に負けを認めた。
そこで僕は回復魔法をかけてやり、ヴィクトリアは起き上がってくる。
そして起き上がるなり僕に抱きつき驚愕のセリフを発する。
ちなみに鎧がゴツゴツして地味に痛い。
「結婚してくれ!」
「「…………」」
その場を静寂が支配する。
意味がわからない。
思考を読もうとするが、もう既に僕に対する悪意がないので分からない。
「今なんとおっしゃいましたか?」
聞いたのはエリアさんだ。
「あたしを腕力だけで武器も使わず抑え込めるヤツなんて初めてだ! あたしより強い旦那を探していたが、まさかこんなところで見つかるとは! あたしにはもう旦那様しかいない!」
やべ、心をベキベキに折って二度と絡んでこないようにと思って素手で相手したのが裏目に出た。
二度と絡んでこないどころか一生ついてきそうだ。
「あたしは19歳だがまだ処女だぞ。夜伽はこれから旦那様といっしょに覚えるが、このとおり体力には自信がある。何回戦でも旦那様が満足するまで付き合えるぞ。これからよろしくな!」
何をよろしくするんだ。
「ちょっ、いったん離れてください」
「わかった」
僕が言うと素直に離れた。
人が変わったんじゃないかというくらい素直である意味怖い。
んで、もっと怖いのがエリアさんだ。
「クラウスさん…… どういうおつもりですか?」
え、僕が悪いの?
エリアさんから鬼のようなオーラが見える。ような気がする。
「あ、二人は付き合っていたのか? なら順番的にあたしは第二夫人だな! あたしはそのへんこだわらないぞ!」
そしてヴィクトリアが僕の両手を掴んでくる。
そこで僕の指に光るリングにエリアさんが気づいた。
「あ、そのリングはもしかしてピュアブライトリングでは? ……なるほどそれで性別を交換する必要があったんですね」
ああ、何もかもバレてしまった。
「ピュアブライトリングだって!? あの超レアアイテムの? 旦那様、どうやってそんなものを?」
「え、いやそれは……」
「クラウスさん、もういいじゃないですか。ヴィクトリアさんはクラウスさんのスキルのことを口外したりしませんよ」
というわけで、ヴィクトリアと性別を【交換】してその間に『ユニコーンフォレスト』でユニコーン狩りをしてピュアブライトリングをゲットしたことを2人に話す羽目に。
「さすがあたしの旦那様! A級ダンジョンをソロで軽々と攻略できるなんて!」
「いいこと思いつきました。ピュアブライトリングを容易に手に入れられるとわかれば私の父も結婚を認めてくれるでしょう。クラウスさん、ピュアブライトリングをあといくつか手に入れてくれませんか? ヴィクトリアさんからはもう性別を【交換】できないはずなので、代わりの者をこちらで用意します」
「代わりの者って……、エリアあんた何者だ?」
ヴィクトリアが訝しみながら聞く。
「私ですか? 公爵家の次女ですよ」
さりげなく重大事実をぶっこんできた。
◇◇◇
結局、エリアさんが用意した女の重罪人を使って性別を交換してダンジョンを周回し、ピュアブライトリングを10個ほど持参してエリアの実家の公爵家に伺った。
公爵家当主様は目を点にしていたが、エリアさんのいうとおり結婚を認めた。
僕は公爵家の入り婿に。
しかも平民の第二夫人であるヴィクトリアこみで。
通常、貴族の妻がいる場合は平民の妻は妾とするのだからこれは異例だ。
ピュアブライトリングを最初に手に入れられたのはヴィクトリアの協力があってのこと、とエリアさんが主張したためだ。
さらに、しばらくして僕は公爵家の分家として独立する。
それほどピュアブライトリングは貴重なのだ。
貴族の女性を暴漢から確実に守れるので醜聞も防げるし、数も少なく滅多に出回らない。
このリングを融通できることをチラつかせたエリアの実家の公爵家は、発言力を高めていたので多少の無茶は簡単に通せていた。
……ダンジョン攻略のアクセサリーが欲しかっただけなのに、なぜか妻2人と公爵家分家の地位までついてきてしまった。
◇◇◇
傷心のミストラルは、聖メルティア教国に帰国したがやはりクラリスのことを諦められずにいた。
教国で探し物(者)を必ず見つけられる固有スキル【リサーチャー】を持つ者を必死で探し出したミストラル。
しかし、【リサーチャー】から告げられたのは、『探し人はこの世に存在しない』、という冷酷な結論。
今度はクラリスに似た女性を求めて果てのない婚活地獄に足を踏み入れるのだった。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
番外編なので本編とはところどころ設定が異なります。
話の都合上ミストラルは残念な人間になってしまいました。すまない。
なお、クラウスはエリアの実家がピュアブライトリングを必要とするたびに、童貞を誰かと交換してからさらに女性になってダンジョンに潜る羽目になります。
(スピンオフ)固有スキル【交換】でいらないものを邪魔者に押し付けて成り上がります! 気まぐれ @kimagureru
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