◆番外編 ピュアブライトリング 4

 王都に戻ってきてサレンさんにお礼を言い、また放浪の旅に出ると告げる。


 宿舎の僕の部屋の前にはミストラルさんが待っていた。

 もしかしてに会うためずーっと待っていたのか?


「あら、ミストラルさん。もしかしてずっと待ってたんですか?」


「いや、そういうわけではないんですが……」


 とか言いつつその顔は疲れが隠せていない。


「あのミストラルさん、私もう王都を出てまた放浪の旅に出ます。短い間でしたがお世話になりました」


「そうなんですか……」

 

 露骨にガッカリした顔をするミストラルさん。

 なんだか見てられないのでそそくさとその場を離れようとすると、


「ちょっと待ってください」


「なんですか?」


「クラリスさん、一目惚れしていました。私といっしょに聖メルティア教国に来てくれませんか?」


「ごめんなさいね、そういう関係になるつもりはないの。それじゃあ」


 そして僕はその場を立ち去った。

 サレンさんいわく希望を持たせてはならずキッパリと断るべきと言っていた。

 ま、言ったことに間違いはない。

 僕はエリアさんが好きだからね。

 それにもうすぐ男に戻るし。



 しばらくしてミストラルさんが部屋に帰ったのを見て僕も自分の部屋に戻り、ヴィクトリアと性別を交換し、僕は男に戻った。




◇◇◇




 久しぶりにギルドに来た。

 ミストラルさんは傷心から立ち直れず部屋に閉じこもっている。


 エリアさんに呼ばれた。


「クラウスさん、ヴィクトリアさんに【交換】を使ったでしょう」


「え、なんで?」


「何日か前にヴィクトリアさんらしき男の人がギルドで騒いでいまして、『なんで男になってるんだよぉっ!』って言ったあと、『もっと強くなれるからいいか!』って開き直ってたんです。その方のシビルカードは本人認証が機能していましたので、ヴィクトリアで依頼をこなしています」 

 

 え、何? シビルカード問題なかったの? 損したよ。


「ヴィクトリアさんのカードを確認したのが私でしたけど、彼?の外見は男でした。でも、カードの認証が問題なかったので、結局他の人も何も言えずヴィクトリアさんとして扱われています。一部ではダンジョンで性別が変わる罠でも踏んだのではないかと言われています」



 お、勝手に勘違いしてくれてる。

 ラッキーだ。

 でも今まで外見が変わるような【交換】をしたことがないから、次から気をつけよう。



「で、クラウスさんですよね。ヴィクトリアさんと性別を【交換】したんでしょう? 一応調べたんですが、性別が変わる罠の記録はなかったです。ヴィクトリアさんが男になったのと、クラウスさんが姿を見せなくなったのが同じ時期ですし、それ以外に考えようがありません」


 くっ、見逃されてなかった。


「女の子になって何をしてたんですか?」


「え、いやまあ……」 


 別にやましいことはしてなくて女性専用ダンジョンに潜ってただけだから、僕の固有スキルを知ってるエリアさんなら話してもいいか。


 なんて思ってると、



「エリア、また女に戻っちまった! なんとかならねえか?! うん? てめえクラウスじゃねえか! もう逃さねえぞ! ギルド立ち会いのもとあたしと勝負しろ!」


 と、ヴィクトリアさんがエリアさんと僕の会話に割り込んできて流れるように勝負を申し込んできた。


「お前だろ、あたしを男に変えたのは! んでまた女に戻したな!」


「なんでそう思うんですか!?」


「勘だよ! あたしの勘は外れねえんだ!」


 無茶苦茶だ。でも正解だ。


「クラウスさん、これは受けてあげた方がいいんじゃないですか? ギルド立ち会いなら私闘じゃないから禁止されていませんし」


 エリアさんがジト目で僕を見てくる。

 【交換】の責任取ってくださいね、ということだ。


「う、わかりました」



◇◇◇



 ギルド地下にある決闘場。


 立会人はエリアさん。観客はなし。

 僕が希望したからで、当事者のどちらかがイヤだと言えば観客をなしにできる。

 スキルの内容を知られてしまう可能性があるからだ。


「怪我だけじゃ済まないかもしれないぞ?」


 黒曜石の重鎧を着たヴィクトリアが僕に忠告のつもりで告げる。


「それは僕のセリフです」


「言うじゃねえか。言っとくがまどろっこしいのは嫌いだ。一番最初に全力の一撃を放ってやる。それで終わりだ」


 そういうとヴィクトリアは僕の上半身ほどはあろうかという刃渡りの斧を軽々と持ち上げて頭上で振り回すというパフォーマンスをしたあと僕に向かって構える。


 ヴィクトリアの固有スキルは【レデュースウェイト】。

 これは装備品の重量を1/10にするという破格のスキル。

 重鎧を着込み、大きな斧を持っても全く重くないのだ。

 彼女がソロでもB級になれた理由で、自信の素でもある。

 


「両者準備はいいですか? それでは決闘開始!」



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 なんでカードが問題なかったかというと、カードは魔力紋で判断していて性別は関係ないからです。

 魔力紋は指紋と同じような感じで1人一つで固定です。

 クラウスはカードの判定基準なんてわからないのでクラリスと偽ってる間はカードを使わない方がいい、と判断していました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る