はんぶんのお線香

真衣 優夢

やさしい時間



仏壇にお線香をたてる。

数は、2.5本。



一本はご先祖様に。

一本は、この仏壇にいない友人のために。

そして、半分に折った線香は、歴代のペットのために。



手を合わせる。

誰に聞いたんだったか忘れた。

仏壇には、お願いをしてはいけないそうだ。

向こうにいる仏様は同じ人間で、仏様になったとしても、すごい力を持つ訳じゃない。

あちらの世界で頑張っているかもしれない仏様に、現世の願いをぶつけるのは失礼らしい。

確かに。私が仏様でも困る。自分で叶えてよ、とぼやくだろう。



祈ることは、冥福。

心安らかに、穏やかにあってください。

気が向いたら私たちを見守ってくださいね。

それくらいだ。



半分の線香。

ペット専用の火葬場で教えてもらった。

ペットにあげる線香は、人間の半分の長さにするのだと。



一代目わんこは、ミックス柴犬の男の子。

私が幼すぎたせいで、人間をリーダーにするしつけがうまく行かず、よく吠える子にしてしまって申し訳ない。

お腹を出して甘えることもあって、お手とお座り、待てが上手だった。

凛々しく雄々しい男の子。



二代目は、スピッツ混じりの白いミックスの女の子。

親戚で生まれた子犬が余って困っていたので引き取った。

おとなしく美人で、歴代唯一、おまわりをマスターした。

ミックス柴犬の奥さんでもあった。

目がくりくりと丸くて、本当に美人で。



三代目は、譲渡会でもらってきた、ミックス犬コーギー混じり。女の子。

愛嬌抜群で大人気の子を、くじ運で迎えた。

ちょっと短い足、大きい耳がかわいくて、もともと顔つきが泣き顔っぽいのがキュートで。

いっぱい可愛がったけど、何度も病気になって、とても申し訳なく悔しく思う。病気にさせてしまったことが。



現世に生きる四代目もいる。

はじめての血統書つき。トイプードルの双子の姉妹。

ひとりはクリームカラー、ひとりはシルバーカラー。

同じお母さんから同時に生まれて白黒とは、陰陽師の勾玉みたいだ。

とびきりあまえんぼで、人にくっつくのが大好きで、極小サイズの体躯を利用し、お客様が来ると膝に乗ろうとする。人見知りしろ。

頭がよく、吠えたりはほとんどせず、前足でドアをちょいと引っ掻いて開閉をねだるし、散歩やご飯の時間になると、口をもごもごさせて(人間のしゃべる真似をしている?)もうすぐです!と訴える。



仏壇用の座布団で寝るのが大好きという、肝のすわった子。

一番好きなのはじーじのあぐら、次はばーばのお腹の上、三番目が私のだっこ。悔しい。



線香をぽきりと折る。

残った半分は次に使う。

歴代の愛しい子たちに、小さなともしびで、感謝を。



ありがとう、溢れんばかりの愛をくれて。

虹の橋のたもとで待っていてね。



うちは代々、犬が家を守ってくれている。

君たちは立派に我が家を守った。

いてくれるだけで意味があった。

愛をくれて、愛を受け取ってくれた。



ぽきり。

線香を折る音は、幸せを思い出すはじまりの音。

振り向けば、現世の当代犬が二人、尻尾をふって私を見上げている。



みんな。

幸せをありがとう。

今は当代犬を、全力で愛します。

君たちの時、そうであったように。

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はんぶんのお線香 真衣 優夢 @yurayurahituji

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