絞殺
惣山沙樹
絞殺
今回はさすがに許せなかった。
僕は兄の横っ面をぶん殴って床に這いつくばらせてさらに殴った。殴り続けた。
「ごめん、ごめんっ、ごめん……」
いくら謝られようともう遅い。
実咲は僕と同い年で、保育所時代からずっと一緒だった。実咲は三歳になった頃から眼鏡をかけるようになり、彼女の一部となった。
「恥ずかしい。わたしだけ、眼鏡で」
小学生になり、そう言うようになった実咲を僕は慰めた。
「僕は実咲の眼鏡、好きだよ。実咲の眼鏡、可愛いもん」
実咲という女の子それ自体が好きだと言えたらどんなによかっただろうか。それができずに、恋心をくすぶらせたまま僕たちは大学生になり、実咲はサークルの先輩と付き合った。
「実咲は眼鏡のままがいいって褒めてくれるんだ、先輩が」
最初に褒めたのは僕だよ、なんて心の中だけで呟いて。自分の行動力のなさ、意気地のなさ、勇気のなさを悔いて悔いて悔いまくった。
それでもまあ、実咲の今の幸せが続くことを願うのが、人として美しい在り方だと思ってそうしていたのに。
「もう兄ちゃんのことは許さないから」
そう宣言して兄に馬乗りになり首を絞めた。兄の爪が手の甲に食い込み血が滲んだが、ひるまずに力を込め続けた。
兄の力は次第に抜けていったが、僕は初めてなので、果たして確実に息の根が止まっているのか判断できなかった。
腕が限界になり、おそるおそる力をゆるめた。兄の首筋に手をあてて、脈がなくなっているのを確認してようやく安心できた。
そうして兄の部屋にある死体は二つになった。兄、そして実咲。
「ごめんな、実咲」
兄が踏み潰したのだろう、実咲のピンクゴールドの眼鏡はメチャクチャに潰されていた。実咲の身体には兄の体液がこびりついており、いつもならそれをまず拭き取るのが僕のやり方だった。
もう兄の尻拭いをする必要はなくなった。僕はずっと、兄が犯してから絞殺した女の死体を、口に出すのもはばかられるような方法で代わりに処理してきたのだ。
今までは、マッチングアプリか何かで釣った見知らぬ女が相手だったからそれができたが、さすがに実咲には無理だった。
冷たくなった実咲の頬に口付けてから、僕はスマホを取り出した。
「ああ……あの、兄を殺したので、今すぐ捕まえに来てほしいんです。その他にも色々やりました。犯人隠匿とか死体損壊になるんですかね、そんな感じのことも数え切れないほどあって、ただ一応記録はつけていたので捜査とか裁判とかではきちんとお話できると思います、ええと、僕の名前ですか、僕は……」
絞殺 惣山沙樹 @saki-souyama
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