5,まわる
人生というのは、諦めるものを増やせば色々とうまくいくらしい。
いじけてばかりの僕に、彼女ができた。
彼女は僕の後悔の穴を埋めてくれた。
少女に面影があり――。
少女の話をするのはよそう。
とにかく、僕に足りない部分は彼女がすべて持っていた。学力も……。
もちろん頭が足りていないわけではないぞ?多分。
彼女とカラオケに行き、彼女と楽器でセッションをし。
彼女と勉強会を開き、彼女と問題を出し合い。
うん、上手くやれてるだろう。
とにかく、彼女といる間は幸せだった。
僕の過去を知らないのはありがたいが、少し騙している気がしてならない。
僕が、自分が原因でいじめられていたことを知れば、いなくなってしまうのだろうか。
彼女は何も聞かない。僕の何も知らない。
わからない。わからない。
彼女は、僕の言うことに二つ返事で「いいよ」と返す。
断られたことはない。
彼女は本当にに僕といて楽しいのだろうか?
やはり、わからない。
ならせめて、楽しめるように務めなければならない。
僕は死んでもいいと認めてくれる人が好きだ。
僕自身、周りの人間に死ねと思いながら接しているし自分自身死にたいと思っている。
終われるならいつ終わってもいい。
逆に死んだらだめだとか、迷惑を考えないのかとか、そういう言った言葉はすべて嫌いだ。
まるで無責任に、神経を逆撫でするような、どうしょうもない苛立ちが襲う。
それを言葉で表現することが僕にはできなかった。
何か、よくわからない感覚だった。
もし自分がマンションや高い場所に住んでいたら、何度死んだのだろうと思う。
学校の窓は低い。
死ねないことが直感的にわかった。
屋上は言わずもがな、漫画やアニメなどにあるような屋上は封鎖されている。
面白くない。
やはり僕のような人間は暗数で、意外と多いのだろうか。
と言いつつ僕が死なないのは、素直に死が怖いからだ。
死んだあとがどうなるのかがわからない。
そして、死ぬのは痛いのだろう。痛みが怖い。
いい訳であるが、これが理由の大半を締めている。
高所からの飛び込みは、気絶で痛みがないらしい。
もっとも、死にたいと思っている人間がそれで気絶するとは思えないが。
もし、失敗すればものすごく辛く、後悔するのだろうか。
中途半端に生きている人間ではなく、それはもう死体なのではないか。
話を戻すが、僕の彼女はそれをすべて肯定してくれる。
もちろん、死ねと言ったり、暴力を振るうわけではない。
ただ、人間としての暖かみが心地よかった。
僕の心を尊重し、大切に扱ってくれる。
その心が清く、井戸の底のようだった。
そのなんとも言えない人間の本来の矛盾を抱えた気持ち悪さが、僕にはどうしょうもなく気持ちよく感じた。
そしてもうすぐ彼女の誕生日。
これから店を予約するのだ。
珍しく、といえばまるで自分が守銭奴のようだが割と金遣いが荒い方で、すこし高めの店にした。
(普段高いものを購入しているというわけでなく、安いものを沢山買ってしまうという意味で。)
もっとも、高校生の貯金では高級レストランなど行けるはずもないのだが、今回は頑張ってためたなけなしのお小遣いを奮発する。
「どの店に行こう?」
「私はすし食べたいかな。」
「近くにあるかな……。」
数日後、店を確認し、その店まで一緒に徒歩で移動した。
彼女といる間は、まるで許されたような気持ちになる。
何がと言われれば難しいがとにかく、自分はここにいてもいいんだという、とても簡単なことに気付ける。
「……?」
「どうしたの?」
「いや、私の勘違いみたい。ごめんね!」
ここの道は入り組んでおり、まるで迷路だ。
といえばここいらの住民にバカにされるのだろうか……。
そうして。
彼女と共に店へ寄ろうとしたとき、何か、吐息のようで塊のある、まさに溢れだしたとでも言うべき声になっていない声が聞こえた。
疑問に満ちたその一言一言に僕を振り向かせるのは簡単だったらしい。
少女がいた。
久しぶり、と言いかけ挙動不審な少女を
「ど――」
瞬間。
150cmに満たっていないであろうその小さな背格好の少女はうつろな、そして強い忌避感に満ちた目を僕に向けそのままあっけなく、押し倒され。
「気持ち悪いっ!気持ち悪いっ!気持ち悪いっ!気持ち悪い!しねっ!しね゛!ん゛っ!!んっ!消えろ!死ねっ!」
彼女は僕をナイフで一突きし、顔を殴り続けた。
のだろうか。
なぜ、と意味がわからなかった。いや、わかっていた。
うすうすは感じていたのだ。
彼女もまた僕と同じで、許してほしかったのだろう。
生きる意義を見出したかったのだろう。
そうして、叶わなかったようだ――。
ドーパミンというやつで、痛みはあまり感じない。しかし、喋ることもできない。
意識が朦朧としてきた。
僕は君と出会ったあの日から、死人のようなものだったらしい。
すると、僕の彼女が少女横に押し倒し、
どこからか出した僕に刺さったナイフを抜き――
一突き。
刃物というのは力を込めればあっけなく体を貫くもの。
彼女はとても脆かった。内面も外面も。
すでに過呼吸に陥っていた彼女を殺すのには、それは一瞬で、それで十分だった。
彼女は正気のない声で最後の声を吐露した。
それはありふれた謝罪であり、■■■が言うべき3文字で。そこからは……。
彼女自身がどう思っていたかはわからない。
少なくとも■■■は少女を、どこにでもいるありふれた女の子なんだと瞬間、悟っていた。
そうして、一度も目をさますことがなくなった。
植物状態――
地獄がはじまった。
あれから数ヶ月が経過した。病院には見舞いに行き、と言っても彼が目が覚めることはもうない、らしく。
「全部あの女のせいだ……。」
やつれた声で紡ぐ。
私は亡霊のように彷徨う。
否、亡霊ですらなかったか――。
空気が死ぬこの数時間、半端な何かは彷徨う。
「なんで……」
彼女は週に一度この場所に来ていた。
自分が何者かすらわからなくなった彼女は、なんで、なんでと繰り返す。
因果応報だろうか。人を殺したのだから当然の報いだ、と彼女は思い込む。
彼女は少女が人ではない何かであることを、同時に憶えていた。
そして実際には死にかけで半端なものでもあると、実感していた。
何かを殺せば何かになる。
化け物を殺せばそいつが化け物になる。
順番は巡って、自分の番になる。
あまりにも当然の話だった。
「義務って奪い取れちゃうんだ、はは、バカバカしい。何が義務よ!世界なんて知ったこっちゃないわよ!私は!大事な人を!奪われたの!!」
怒声で満ちた口でものを言いつつ、自分が間違っている事を彼女は身にしみて実感していた。これは責任である。
自分が被害を受けたのだから世界中も苦しむべき、と本気でそう思っていた。
何も知らない人間が禁を破る。
故意でなくとも、責任は破った人間に無慈悲に襲いかかる。
やつれた声で、誰にしようだれにしようと口ずさむ。
そこから数週間後。
ある病室の一室に、見舞いにきた女子生徒と眠り続ける少年の姿があった。
少年の手にはナイフが握られており――。
否、刃物がガムテーブで固定されており。
「君のせいだよ?へへ……。もう、全部君が原因。あの女も結局あなたのせい。全部全部あなたが悪いの。」
瞳孔は開いており、震える声でそう呟く。
そうして、僕が産まれた。
君と出会ったあの日から ます @math1017
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