4,弱さ
少女と話して、少しずつ心が溶けていくのを感じる。
少しずつ言葉が砕けていくのを実感する。
僕の悪い癖だ。結局最後はタメ口になって、態度がでかくなる。
だから、学校の友人とは稀に距離を置くことがる。それも相手から来られちゃ、無駄に終わるのだが。
しかし、心の許せる相手というのは、それは自分の醜さを見せることができる相手であり、やはりそこから関係が崩れていくものだ。
だから、人との距離感をよく掴み、相手のゾーンに立ち入らなおように注意する。これが人間関係なのだろう。
しかし、どうやら人からの好意というのは、全く、これに限った話ではないみたいだ。
少しくらい雑な方が人の好みを集めやすいらしい。
もっとも、横暴ばかりでは寄るものも寄らないが。
ふと、少女は自分の作り出した未練、幻なのではないかと馬鹿な発想に至った。
少女といると居心地がよい。正確な歳は知らないが恋愛感情というものでもない、いわゆる親近感だ。
しかしその、まるで都合の良すぎる存在がいきなり現れたという事実が飲み込めていないのだ。
自慢ではないが自分が心を開いたことはない。
カウンセリングにも通っていたが、話にならない。
持論を押し付け僕を叱る。
3時間僕を立たせ自分は椅子にすわり、説教されたこともある。
馬が合わないというやつだろうか。
どうしょうもない人間を改心させることはできない。
無辜の人々を救うことが善人なら、悪人を悪人足らしめているものはなんだろうか。
悪友という言葉があるが、それも一種の信頼ではなかろうか。
悪人まで救って善人なのだろうか。
善人は悪人に死んでほしい、消えてほしいと思ってはいけないのだろうか。
知らないものは知らないということを、皆忘れている気がする。
他人は他人であるということを、皆忘れている気がする。
嫌いな性格に自らなりたいという自暴自棄も、他人を傷つけることで自分を傷つけているという事実も、すべて他人を顧みない身勝手さだ。
誰かと接する度、共感して貰える場面と共感してもらえない場面。自他の食い違いにイライラする。
仕方ないのはわかっているが簡単な方に、どうしても流れてしまう。
諦めてしまうと、かえってこの関係性が崩れるようで。
もっとも、崩しているのはいつも自分なのだが。
「はぁ……」
ため息が多いと周りに迷惑をかける。
当たり前だが、出てしまうものは仕方がない。
だから、何でも許せる自分になりたかったのかもしれない。それは、ある意味で破滅的で――。
いつだって、気付いたときにはもう遅いのだ。
壊れないと気付かないから。
あの人ともう一度喋りたい。というのは自分のエゴだ。都合のいい解釈ばかりして、許してもらった気になって。
謝れないでいる友人がいる。
いや、友人というのは僕だけが一方的に思っているのか。
許してもらったとて、前の関係にとはいかない。
すべて足踏みをしている気分だ。
それも楽しいのだから困る。
まさに自分は、終わっている人間なのだろう。
色んな思慮配慮を巡らせ、考えに考え抜いても起こせる行動は一つだ。
周りの目に映る行動も一つだ。
何を考えその行動に至ったか、すべて見透かすことができる人間はいない。
では、それまでに考えたことは全て無駄なのだろうか。
なら、考え込む事自体……。
いつの間にか眠りについていた。
翌日、少女は姿を消した。
言葉というのは妙で、口に出すとそれを意識せずにはいられない。
思うより喋る方が、実際にそうなってしまう。
いわゆる言霊というやつだろうか。
相手は常に鏡である。優しくしたとて良いことはないが、悪いことはより自分がダメージを負う。
と、いうのは被虐意識の現れだろうが、やはり、ネガティブな言葉というのは他人より簡単に自分を崖においこむ。
一度出した言葉は、まるで影のように自分を追い、ときが来れば「ほら見たことが」と自分が笑っている。
影は笑わない。それはきっと、どうしようもない笑いなのだろう。
いつ死ぬかいつ死ぬか、とグダグダ生き続けてここまで来てしまった。
なかったはずの未来は僕ではない誰かが紡いだ。
諦めでも希望でもない、赤の他人の人生なのだろう。
だから、見ていた映画を消すように――電源コードを抜くように――いつでも終われると思っていた。
しかし、死の何もなさはあっけなく僕の死ぬ希望を飲み込んでいった。もとより、自分に消える覚悟などなかったのであろう。
自分の居なくなったあとなんてどうでもいい。
しかし、自分が生きている限り、不幸せはやはり辛い。辛いものは辛い。悲しいものは悲しい。
慈しむべきものを、そうであると定めて、慈しむことができるようになった。
他人の別側面を考えることができるようになった。
しかし、僕の中の嫌な僕は急に現れ急に消える。
文句を言いに来た挙げ句、それを捨て台詞に消えてしまう。
あえて嫌なことを言いたくなってしまうときがある。
悪人は悪人と自覚することで、幸せになれるのだろうか?
(以下少女視点)
あの公園には思い出がある。
名前も思い出せない君。
母や父、きょうだいは居たのか居なかったか。
泡のように消えていったあの瞬間。
無責任でも消えてしまえば文句の言いようがない。
私の人生は、中学1年生最期に終わった。
なんでも、事故にあったわけでもなければ自殺したわけでもない。
指名されただけだ。されただけ。
世界が終わるとかわけのわからない事をいわれ、生きているだけでいいからとか、やはり、わけのわからない事をいわれ。
どうやら、私が死ぬとこの世界が終わってしまうらしい。ほんとに馬鹿げた話だ。
私には指名されたその時から100年、生き続ける義務がある。
食べ物や飲み物はいらないし、体はそのまま。
ただ、100年間追加で生き続けるだけ。
最初は嫌になって死のうとしたこともたくさんあった。
しかし、自分から出ていってしまったあの人たち――誰か――を思うと最後の一歩は届かなかった。
情けない話だ。急によくわからない義務を背負い、急に人ではない何かとなった。
最近、そう。その公園でよく出会う人がいる。
この体では見れば思い出す機能はあっても見ないと思い出すことすらままならない。
見に起きたことは抽象的にでしか、思い出すことができない。
思い出す行為は、わざわざ辞書をひく行為に等しい。
しかし、公園に行けば思い出す彼がいる。
彼を喋るのは楽しい。
楽しいが、やはり、非人間の化け物になってしまったのだと、拒絶感が都度浮き出る。
噛み合わない歯車を無理やり回しているような気持ちになる。
今日も行こうとしたそのとき、偶然。
ほんの偶然であったが、数秒だけすれ違ってしまった。
自然と、自分に対する嫌気が全身を駆け巡った。
そこからはここに居てはいけないという思考に支配され、しかし、どうすることもできないので空き地で雨風をしのいでいる。
情けない。情けない。
何もしたくない。何もしたくない。
生きていていいのだろうか。
もう死んでも良いのではないだろうか。
しかし、そのエゴで世界中の人々を殺す羽目になるかもしれないという賭けはできない。
それは無責任で、あの、私を指名したやつと同類になるからだ。人間の心までは捨てられない。
「心……こころ、か……。」
心なし。私は心なしである。
人の気持ちがわからない、持っていたものをなくしたような気持ち悪さ。
コンタクトや眼鏡のない生活を強いられているような、私とあなたの世界のズレ。
私は何をしているのだろうか。
生きることに意味はあるのだろうか。
死んでいないからわからない。
しかし、死んだ先のことはもっとわからないだろう。
世界に生かされているようで、脅されているようで。
「これが世界の英雄って…ほんと笑えるな。
そろそろ、ほんとに死んじゃおっかなあ……」
無責任に、弱音を吐いた。
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