3,この気持ち
「結局、人間関係とかで誤魔化しても過去の自分の行動が自他に影響を与えたりして、その結果不和が生まれたり調和したりして。すべて自分の行いなんですかね。」
「難しいことを言ってますけど、最終的にーとか、けっきょくーとかじゃなくて、全部今の連続なんですから、今精一杯のことをしてみればいいんじゃないですか?」
「今の積み重ねで、連続で。常に気を張ってたら潰れてしまうから、それで……。」
続けようとして、息を呑む。
今の僕はああ言えばこう言う、と言うやつなのだろうか。
少女の言ってる意味もわからなくはないが、少し他人事だ。
よく心の穴という表現があるが、僕はそんな穴より周りを埋めてほしいのだろう。
何か、常に溺れ続けているようで、しがみつく場所を与えてほしいのだろう。
もっとも、常に陸から離れ泳ごうとしているのは自分自身なのか。
「他人に言われて保守に走るか、自分の意志で挑戦するか、どっちが素敵だと思いますか?」
「保守って意味が安定的なニュアンスなら他人に支持されてる人生がいいかなあ。けど、自分の意志で突き進むのも夢があるよね!」
「結局どっちなんです?」
「だから、夢を追うと自分の意志で挑戦するはセットで、それ以外は他人に任せたらいいんじゃない?むしろそれが普通である種信頼の形でしょ?」
それはちがうと、否定したくなる。
「夢がないなら?」
任される側になりたくなかった。
プライドが僕を邪魔した。
「それこそ夢がないこというなあ、夢なんてちっさいほうがお得じゃない?目標は小さくても叶う数が多い、結果的に継続しやすくなる。」
ありふれた夢は夢なのだろうか?
すぐに潰える夢に、意味はあるのか?
「でも、惰性になるでしょ?小さい目標なら、別にやらなくてもいいって選択肢が出てきますし。」
「だから、ノーは基本的に受動的でしょ?だって、そもそものYesが能動的で、それを辞めてるんだから。だったら結局他人に敷かれたレールを歩んでるのと何も変わらない。」
少女は続けて。
「そもそも、私は大きいほうがそのうち惰性になると思うなー。やってる実感もそのうちなくなって来るだろうし、作業になるからさ。
厳しいことを言う。
結局夢なんか無いってことか。
ただ達成するべき目標を掲げて、それに向かって全力で走る。その繰り返し。
夢がない。
結局、自分が何をしたいのかなんて全くわからない。
やりたいことができるたび、それを破いて。
やりたいことができるたび、また破いて。
意味のない人間なのだろう。
本当の意味で生産性がない人間なのだろう。
思えば、ほとんどの物事を中途半端に終わらせてきた。
ほんとうに、何がしたかったんだろうか。
「かくいう君はなにか夢は」
「ありませんよ?レールの上まっしぐらです。」
「そうか、そうか……」
まあ本人がいいのならいいのだろう。
「でも、意外とみんな悩んでるもんなんですね。」
「……?」
最後の言葉の意味を考え込んで、その日は終わった。
また、昔話をしよう。
その幼馴染は中学1年生に上がる頃、突然いなくなった。
なんでも、親は一切探そうとしなかったらしい。
すべて"らしい"だ。
話に尾ひれがついているものもあるだろうが、どちらにせよ本質的に意味はない。
僕はそもそも違う学校だったし、その前から疎遠気味だったし、包み隠さずに言うとあまり気にしてはいなかった。
そんなもんだとすら思った。
だから、再開したときなにかの間違い何じゃないかと思った。
もちろん世界は今日も違わない。
似ていたのは過去のあなたで、今の■■ではない、から。
だから、むしろ初対面や感動の再開みたいな変な気まずさもないし、たまに合う同級生とかそういった不思議な安堵感のある存在だった。
「何考え込んでるのー?」
すると、いつの間にか少女が横に座っていた。
座っていた、というのも懐かしさに炙られブランコを漕いでいたのだ。
無論、ちまちま揺れていただけであったが。
「ちょっと昔を思い出して。昔の自分は、本当にいらつくやつだった。自分のことしか考えてなくて、でも他人が必要で、他人は自分の体の一部とすら思っていたかもしれない。」
自分は何を言っているのだろうか。
もはや答えなんてないものを人と共有して、何になるのだろうか。
「人のことを無碍に扱うのはどうかと思うけど、それはそれでいいんじゃない?ちょっと卑屈過ぎると思うけどなあ。でも、今はもう違うんでしょ?」
常に他人に感化され、加えられていく。
選ぶことを辞めようとしても選択肢として残り続ける。
周りに、粘土のようにペタペタとなりたい自分を重ね、整えていく。
それがこころだ。
まして、すぐに心変わりなんて不可能なのだ。
「わからない。何が変わったかなんてわかるはずもない。過去を反省しろなんて指図される気はないし、改心もしていないんだ。だから、何が変わったかもわからない」
やはり変わらない自分に、都度嫌気がさす。
「そんなもんだと思うけど。段々と心が溶けるように、丸くなっていくもんでしょ?」
完成した彫刻をその都度削り直すことはできない。それはこころをする減らす行為だ。
「変わったと思いこんでも本質は早々変わらない。角が取れても立ち位置は変わらない。意識していても、知らぬ間に本音は溢れ出す。良くも悪くもとはいうけど、良いなら問題にならないんだ。いつも悪いことを言うたびに、相手を傷つけて後悔するんだ。」
本当は、こう思う自分に酔っているだけかもしれない。そう思うと、自分に吐き気がする。
「相手がそれをわかってくれるか、って話ならそこまで気にしなくてもいいと思うけどね?お互いさまの気持ちが足りないんじゃない?もちろん、良い意味でね。」
「知ったようなことを、って自分から言い始めたんじゃ反論もできないか。」
まったく自分がバカバカしい。
「私だって間違ったことを言うときもあると思うし、正解なんてないと思うよ?ただやっぱり、最善の積み重ねをするしかなくてさ。」
「それが辛いって話だから、ホントどうしようもないよ。」
本当にどうしようもない。
考え込んで、考え込んで、一体何になるというのか。
同じことを繰り返し続けて、後悔だけが積み重なって。
「要するに、そこまで一人で背負い込むことはないってこと!一人で背負い込むって言うけど、後悔した分だけ背負ってちゃ重すぎて疲れるよ?たまには降ろさないと。」
「後悔を降ろすなんて。降ろせる後悔は後悔じゃないですよ。」
「ちょっとでも自分を許すことができれば、若しくは自分を許してくれる存在がいれば、肩の荷も降りるんじゃない?」
自分を許してくれる存在――
恋人や家族だろうか?いや、前者はどうせ気を使う。家族には心が開かない。
「そもそも僕は自分をよくわかっていない。だから本当の自分を見せれる相手なんていないですよ。みんなそうでしょ?本音は常に、憎しみや後悔、弱い心を投影するときに出るもんなんです。」
すると、キョトンとした顔で少女は考え込んで。
「まあ、なら一度何も考えず、いや。考え込んでしまってもいいのでちゃんと心を休ませてあげたらいいんじゃないですか?後先考えず、とりあえず無駄に布団のなかで一日を費やすのも、いいものですよ?」
それは確かに自分を諌める解決策かもしれない。
しかし利己的というのは相手がいて初めて発生するものだ。
どうしようもない人間は、残念ながら存在する。絶対悪という話でなく、言うなれば相対悪だ。
「自分ひとりが解決したとて、これは人と人との間に起こる不和だから。結局また、自分と違う他人と出会うたび死ねとか消えろって考えてしまうんです。どっちが正しい、誰が正しいとかではなく。どうしようもない気持ち悪さを感じて、排他的になるんです。」
自分一人ではどうしようもないときもあるように、人数が増えるごとに不和が発生する確率も上がる。
「君が人を選ぶように、あなたを選んでくれる人がいるから、きっと。お互いにそばにいてほしいって気持ちが重なってやっと共存できるもの。どちらかが嫌な気持ちになるのは、けど、意外と仕方ないものだと思うよ……?」
少女は言いつつ、落ち着いた――どこか安堵した――顔をしてそういった。
しかし、それは昔どこかで見た諦めに満ちた顔でもあった。
その顔は、いつか自分が。
昔――4年前――に他人に拒絶されたときにする顔だった。
そうしてまた、一日が終わった。
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