第23話 ルミナのギフト

「グンジーさんは『暗視』と『気配察知』のスキルを持ってますか?」


「いや、持ってない」


聞かなくてもどんなスキルかは想像がつく。

暗視に気配察知。今あったらどんなに便利だろう。これからも必須のスキルだし、戻ったらライオネルさんに相談してみようかな。


「じゃあ、今回は一緒に行動しましょう。私は両方持ってるので、グンジーさんの目になりますね」


そう言ってルミナは俺の腕を握り、射程圏内に入ったトレントに火球を浴びせていく。


「申し訳ない。これだと魔石の回収すらままならないな」


「動きが遅いので、一通りやっつければここらへんにはしばらく出なくなります。あとでゆっくり回収できますよ」


「なるほど。了解」


その後、三十分ほど戦い続け周囲にトレントの気配はなくなった。


生活魔法の火起こしを明かりに俺は魔石とアイテムの回収を進める。二人の苦労と比べたら楽な仕事だ。


結局この戦いで獲得したのは魔石16個とトレントウッド2本だった。


「最初いきなりドロップしたのに、その後はあんまりだったね」


「まだまだ! これからこれから!」


あれだけ飛び回っていたのにサイラは元気いっぱいのようだ。


トレントは群れで棲息する習性がある。


一度見つければまとめて掃討できるのだが、広大なレッドシダー原生林ではすぐに群れを見つけられるわけではない。


歩いて一時間ほど森の奥へと進む。


馬の移動では勢い余って群れの中に突っ込み、トレントの集中砲火を浴びかねないので、討伐は徒歩が基本だ。


少し遠くでバキバキと木の軋む音が聞こえる。


「みっけた〜!」


脱兎の如く駆け出すサイラの後に俺達も続く。

さきほどと同じようにルミナは俺に寄り添いながら、火球を連射し奴らを寄せ付けない。


ただ、今回はさきほどよりもトレントの数が多い気がする。攻撃は当たっているもののトレント達との距離が徐々に近くなってきた。


「大丈夫か?」


「はい。平気です」


と言う彼女の表情にも少し焦りの色が見える。


俺にも何か出来ないか?


トレントの枝がルミナの足に絡みつく。それを俺はすかさずクラッシュする。


しかし、枝は本体から切り離され、大したダメージは与えられていないようだ。


そうこうしているうちに、さらに間合いは狭まる。


十数体のトレントの触手が次々に俺達に襲いかかってくる。クラッシュしてもクラッシュしても迫りくる枝。


ついに俺達の体が宙に浮いた。


両手でクラッシュし続けるも、絶え間なく伸びてくる枝が絡み付き、とうとう身動きが取れなくなってきた。


「くそ!きりがない」


これは一旦退くしかないな。


魔力はだいぶ残ってるから、1〜2体なら本体ごとクラッシュできるだろう。ルミナと協力すれば突破口が開けるはず。


ルミナの方をチラッと見るも暗くて表情は読み取れない。


「サイラ!そろそろ無理かも。逃げて!」


その時、暗闇の中からいつになく大きな声でルミナが呼びかけた。


「了解!たいひ〜。いいよ〜」


「グンジーさん。トレントから離れられますか?」


「あぁ、そのくらいなら」


俺は絡みつく枝を手当たり次第クラッシュし、トレントから一旦距離をおく。


「そのまま動かないでください」


動かない?

撤退するんじゃないのか?


容赦なく迫りくる枝をハエ叩きのようにクラッシュしていると、ルミナは胸の前に手を組み目を閉じた。


「火の精霊達よ。我が祈りに応え給え」


数メートル先すら見えないほど暗かった視界が一気に明るくなる。

頭上には数え切れないほどの光り輝く蝶が舞っていた。


それらが俺達を取り囲んでいた十数体のトレントに向けて一斉に羽ばたく。


ルミナも絡みついていた枝を風魔法で切断し、トレント達から離れる。


俺はあまりの眩しさに目を細めた。

ヒラヒラと舞い降りる蝶達がトレントにとまる。


ルミナがパチンと軽く手を叩いた瞬間、トレント達は業火に焼かれ十数本の火柱となり焼失した。


熱風が収まるのを確認しゆっくり目を開くと、辺りは静寂を取り戻し闇に包まれている。


木の焦げた臭いが充満する中、ルミナが俺の方へ駆け寄ってきた。


「今のは蝶じゃなくて妖精?」


「はい。私のギフト『精霊召喚』です。今のは火の精霊達を呼び出しました。契約できてる精霊はまだ少ないんですけどね」


「今回は出すの早かったね」


「うん。思ったより数が多くて囲まれちゃったから」


「すまない。俺のことは気にせずいつも通りやってくれ」


普段と違って俺を庇いながらの行動ではやりづらいだろう。


「いえ、グンジーさんのせいではないです」


「とりあえずちょっと休憩だね」


精霊召喚には結構な魔力を消耗するらしく、長めの休憩をはさみ俺達は朝まで同じ作業を繰り返した。


邪魔にならないよう鉄の防壁を作成し体を囲むと、トレントの枝攻撃は無効化できた。


気付くと器用さが3上昇。

初日の成果はトレントウッド9本となった。


「前は運んでもらえなかったから一日ですぐ引き返したけど今回はもう一晩やってみる?」


「間に合うかな?」


「なんとかなるでしょ」


「食料はボーグでも仕入れてあるし、収納容量もまだまだ大丈夫だな」


「じゃあ決まりだね」


その後、俺達は交替で見張りをして休息を取り二日目の成果はトレントウッド11本。魔石は合計220ほど獲得することができた。


一度討伐したエリアにトレントはしばらく出現しない。

続けるには更に奥地へと進まなければならないのだが、これ以上の深追いは危険と判断し早めに切り上げ帰路に着いた。


危うく忘れかけていたが、最後にお目当てのレッドシダーをクラッシュ。一本で5トン以上の重量があったので魔力の回復が少し遅くなったものの、それでも収納限界にはまだ余裕があった。


帰りも行きと同じくボーグの街へと立ち寄る。


食事を済ませ宿屋へ向かおうとしたところ、泊まるのは絶対グンジーハウスだと嬉しいリクエストが。


建築スキルで出てきたもう一つの【簡素な平民宅】をビルドしてみると、木造1LDKの平屋が出来上がった。


強いて例えるなら木造の仮設住宅といった感じ。


10畳ほどのリビングダイニングに6畳ほどの寝室がある。外は寒いしリビングに寝れるほどのスペースはないので、やむを得ず三人で寝ることになった。


意外に全く抵抗がなかったのは幸いだった。


先に風呂に入ってもらい、俺は今度こそゆっくり露天風呂を満喫して部屋に戻ると、二人はまたもや寝息を立てていた。


三つビルドしておいたシングルベットは真ん中だけが空いている。二人に挟まれつつ俺もすぐに意識を失った。



バドコリーナに到着したのは四日目の夜遅く。

貸馬屋に馬を返却し、ギルドで魔石とアイテムを換金する。


トレントウッドが20本で200万G

トレントの魔石は1つ500G、シープピッグの魔石は1つ100Gの買取だった。


一人当たり70万ほどの報酬になったが、俺は現金50万とトレントウッド1本、シープピッグの毛10個をもらうことにした。


前回を遥かに上回る収穫に上機嫌の二人。


無邪気に抱きついてくるサイラに戸惑いつつ、二人と別れた俺は久しぶりのプライベートタイム。


明日は時間を気にせず一日中寝て過ごそう。


【魔 力】723

【能 力】筋6 知6 速6 器26

【スキル】収納Max、建築1、生活魔法2、身体硬化2、意思疎通2、精製2

【ギフト】クラッシュ&ビルド

【素 材】

コリーナ草2kg/水100kg

オレンジの木2000kg/鉄1400kg

レッドシダーの木5500kg

【持ち物】

オレンジの実100個

ケイブバットの羽バック3個

シープピッグの毛10個

トレントウッド1個

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

授かったスキル【クラッシュ&ビルド】で異世界を好きに生きる シマリス @shimaris

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画