第22話 深夜の攻防

翌朝


夜明けとともに目を覚ました俺は何気なくボーグの街へ。


入口近くで朝市が開かれていたので、バゲットと卵、ベーコン、朝採り野菜を購入しコテージへと戻る。


朝食の準備をしていると二人が寝起きのまま目をこすりコテージから出てきた。


「おはよう。よく寝れた?」


「うん。早起きだね。木の香りが心地良くて、いつの間にかベッドで寝ちゃってたみたい。ごめんね。いびきとかうるさくなかった?」


「大丈夫だよ」


外で寝たことには気づいてないようだからあえて言う必要もないだろう。


「朝食作ったから食べな」


「ありがとー!」

「ありがとうございます」


用意していた椅子に二人も腰掛ける。

朝はだいぶ冷えるので焚き火の炎が身に染みる。


「この時間に出れば明るいうちに着きそうだ」


「ここからなら半日もかからないね」


「意思疎通はだいぶ上達してきたから、気にせずいつも通り走ってくれて構わないよ」


ステータスを見ると意思疎通スキルはいつの間にかレベル2になっていた。


風呂と目隠し用の柵はクラッシュして回収。

二人が「おぉ〜」と感嘆の声をあげる中、木こりの家も回収しようとして手を止めた。


「これはこのままでいいや」


また帰りにも寄るだろうし、トレントウッドがどれほどの量になるか分からないし、レッドシダーも取っておきたいからな。


誰かに利用されるリスクもあるが、その時はその時でまた作ればいい。一応、入口のドアには簡易的な鍵をビルドして施錠しておいた。


「そうですね。またここに泊まりたいです」


サイラもうんうんと頷いている。

二人とも俺のギフトスキルを気に入ってくれたようだ。


「ではでは、しゅっぱつ〜!」


お決まりとなったサイラの指差し合図で三頭は走り出す。


半島の左側を海岸沿いにひたすら北上するとレッドシダー原生林地帯へと繋がる。起伏もなく一本道なので迷うことはない。


意思疎通レベルが上がったおかげで馬の扱いがかなり楽になった。

先ほどまでは集中していないとどこに行ってしまうか分からず気の抜けない状態が続いていたのに、今では意識しなくても二人の後を着いていけている。

1レベル上がるだけでこうも違うとは。




途中で十分程度の小休憩をはさみ、俺達はようやく針葉樹林群へと到着した。辺りにはレッドウッド系の巨木が立ち並んでいる。


「ふう、やっと着いたね」


「ここに来るのは三度目だ」


「ほら。おっき〜!」


サイラが巨木の前で手を広げる。

直径十メートルはありそうなその木は小さなサイラと比べると余計大きく見えた。


「これがレッドシダーか」


こんなでかい木を目の当たりにするとクラッシュできるか少し不安になるな。でも、まずはオーダー達成が先決だ。


「トレントもこの辺にいるのかな?」


「はい。夜行性なので昼間は静かなんですが、夜になると一斉に動き出すんです」


「だから今のうちに食事と仮眠を済ませて夜に備えないとね。ここで夜ゆっくりするなんて自殺行為だから」


二人の話によると、トレントは意外に数が多いらしい。

収納スキル持ちの冒険者が少ないうえ、運搬できる容量にも限界があるため討伐数が必然的に抑えられるからだ。


そのため複数パーティーで行動する者も多く、二人も前回はそうだった。ボーグの宿屋の団体も同じ目的だったのかもしれない。


「前回は何かと大変でした。運んでもらうにもEランクになりたての女性二人なんてなかなか相手にしてもらえなくて」


「ムカつくよね〜。あいつらは一本10万G貰えるのに、一本5万Gで買い取るなんて言うんだよ!配送料だとか言って」


「サイラが抵抗してくれたんですけど、結局変わらず、最後には運ぶのは2本までと言われてしまったんです」


「なんか、思い出したらまた腹立ってきた!」


どの世界も大変さは同じなんだな。

二本だと10万Gか。数日かけてそれだと確かに割に合わないかもしれない。


「それは確かにひどい話だね」


「だから今回は気合い入ってるよ!グンジーのこと信じてるんだからね!」


と言いながら、キッと鋭い眼光を向けるサイラ。


うーん、確かに威圧感はない。

でも、この見た目なら大抵の男は優しくしてきそうなもんだが。


「大丈夫。信用してくれ。とりあえず腹ごしらえして、そのあとは交替で休憩しよう」


「「はーい」」



日は落ち、辺りは闇に包まれた。


月明かりだけが頼りのこの状況で戦わなければいけないというのもなかなかしんどいもんだ。


「トレントの討伐目安は確か1200くらいだったはず。動きはそんなに速くないから攻撃を見極めれば大丈夫だよ」


俺にとってはかなり格上だが、二人にとっては余裕だな。足を引っ張らないように気をつけよう。


「いた」


ルミナの視線の先に高さ5メートルほどの木が蠢いている。


メキメキと体を軋ませ地面を擦りながら、ゆっくり進むトレント。まさに映画やゲームで見たことのある木の魔物の姿だ。


サイラがスピードを活かして正面から突っ込む。


本体の動きは速くないが、いくつも生えている枝は伸び縮みしながら鞭のように彼女を捕らえようと迫ってくる。


そんな攻撃を掻い潜りつつ、迫る枝を切り落とし本体に攻撃。炎属性が付与されたことで剣を振るたびに火花を散らす様は幻想的だ。


あっという間に一体目を倒しトレントは魔石とアイテムを残して消滅した。


「やった!一体目から早速ゲットだよ!」


「幸先いいね!」


ドロップアイテムのトレントウッドは長さ5メートル、直径1メートルほどの丸太のような形状だった。


これをそのまま運ぼうと思ったら一本だけでも確かにかなり大変だろうな。


そういえばクラッシュ以外でこんな大きいものを収納したことないが、大丈夫かな?


素手で動かそうとしても案の定ビクともしない。


しかし、手を置き【収納】と念じるとトレントウッドは袋の中へ吸い込まれていった。


今までの袋に放り込む動作は不要だったってことか。


「トレントは目が無いので一定の間合いに入らなければ攻撃してきません。あまり近付かないように気を付けてください」


「分かった」


生い茂る木々に月の光も遮られ、魔物の移動音だけが不気味に響く。こんな状態が夜明けまで続くのか。


冒険者の厳しさを初めて体感した俺は、二人の姿をただ眺めることしかできなかった。

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