衝動

戸崎 遥

衝動

「なぜ、やったんだい?」


「そうしないといけないと思ったからです。」


「人を殺しちゃいけない。子供でもわかることじゃないか。」


「ぼくは子供です。」


「だから君にもわかるはずだ。」


「・・・そうですね。」


「山川くんのこと嫌いだった?」


「いいえ。別に好きとか嫌いとかないです。」


「そう。」


「はい。」


「いじめられてた?」


「いいえ。」

「ただ殺した日はすごく絡んできたというか。」


「ほお。それでカッとなってやったと。」


「いいえ。冷静だったと思います。あ、でもその日たしか彼が洗濯ばさみを僕の耳につけてきて。それで痛いなって、思って、思ったような気がします。うざいなって。だから蹴りました。」


「洗濯ばさみ、ね。」


「はい。洗濯ばさみです。」

「あなたは洗濯ばさみで挟まれたことありますか?」


「・・・ないです。」


「まあ。経験しなくてもいいと思います。あれ痛いですから。」


「蹴ったんですか。」


「はい。ああいう輩は口で言っても聞かないですから。体に覚えさせた方がいいんです。」


「なるほど。」


「そしたら、あいつ調子のんなっていって、僕をぶん殴りました。いやぁ、びっくりしたなぁ。」


 被告人は青くなった頬を指さしながら笑っている。


「それで喧嘩になって殺したんですか?」


「いいえ。その時は殺してないです。だって相手の方ががたいよかったんですもん。普通に喧嘩したら負けるに決まってるじゃないですか。」


 たしかに殺された山川の背格好は彼より大きく、なにより太かった。


「それじゃあどうやって?」


「その前に聞かなくていいんですか?」


「なにを。」


「動機。」

 

 ・・・今は彼が話たいことを聞こう。


「聞きましょう。」


「あやめちゃんがいたんです。」


「あやめちゃん?」


「僕の好きな人。」


「ああ、空崎彩芽か。」

 

 言っちゃった~といって照れる被告。


「はい。同じクラスの。それで彼女見てたんです。僕らのやり取り。僕が無様に殴られるところを。」


「それで。」


「ああ。このままじゃ。失望されるなってそう思いました。」


「殴られるところを見られたから?」


「そうです。」


「だから殺したの?」


「・・・。」


「いいえ。違います。いや、そうなのかな?うーん。ちょっと考えさせてください。」


 被告人は神妙な面持ちで黙り込んだ。

 うーんとかふーんとか言って2分ほど経過した頃やっと合点がいったのかこちらを向いて手招きした。


「たぶんそうなのかもしれません。でも彼女だけじゃなくて、他にもいろんな人が見ていたと思います。つまり、僕はやり返さなくてはならなかった。」


「なめられるから」


「そうです。学校で1度嘗められたら終わりです。蔑んだ目で見られます。あいつはあいつに負けたんだ。そういうレッテルを貼られ生きることになるのです。それが僕には耐えられなかった。だから殺しました。」


「それが今後の人生を左右するとしても?」


「ええ。だって僕は今を生きているのですから。それにプライドを捨てて生きるなんて、僕にとっては死んでいるのと変わりません。だから僕は殺したことを後悔しないんです。」


 ごめんなさい。

 

 彼は多分罪を犯したことに謝っているのではありません。

 犯した罪を反省できないことに謝っているんだと思います。

 

 だって見てください。彼の表情。

 

 達成感に満ち溢れているでしょう。




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衝動 戸崎 遥 @haruka_10zaki

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