てるてる坊主のてる坊

雨世界

1 明日は、晴れるかな?

 てるてる坊主のてる坊


 明日は、晴れるかな?


 こんにちは。今日もいい天気ですね。


 私の暮らしている部屋では、いつも雨が降っていた。私は雨の中でずっと暮らしていた。

 部屋の外に出ているときは、こんな風にずっと雨に濡れることはなかった。(もちろん、家の外でも雨は降るときはあったのだけど、いつも雨が降っているわけではなかったから)

 私は部屋の中にいるときは、いつもいつも、泣いていた。

 私は家の外にいるときだけ、ずっと、ずっと、にっこりとした笑顔で笑っていた。(もちろん、それは偽物の笑顔だった。本物の太陽ではなかった)

 それから家に帰ってきて、部屋のドアを開けると、私の部屋にはやっぱりいつものように雨が降っていた。この雨をどうしても止ませたいと思ったのだけど(雨は嫌いではないのだけど、ずっと雨だと気が滅入ってしまうのだ)私には、この雨がどうすれば止むのか、その方法が全然わからなかった。

「ねえ、今、大丈夫?」

「なに、お母さん」小さな声で私は返事をする。

「暇だったらさ、ちょっと買い物行ってきて。急に用事ができちゃったの」忙しそうにしている様子のお母さんが言う。

「うん。わかった」開いていないドア越しに、私はお母さんにそう言った。

 中学校の制服からシンプルな私服姿(白い薄手の上着に、青色のスカートだった)に着替えをした私は、お気に入りのサンダルをはいて、お母さんの代わりに夕食の買い物に出かけた。

 家を出ると、世界の全部が、オレンジ色の夕焼けに染まっていた。

「……綺麗だな」そんな(本当に、馬鹿みたいに綺麗な)夕焼けを見て、大きめの買い物用の手提げバックを持った私は一人、そんなことを玄関の前でつぶやいた。


 次の日、私は素敵なことを思いついた。てるてる坊主をつくることにしたのだ。(なんで今までそうしようと思わなかったのか、不思議なくらいすごく素敵な思いつきだった)

 私はわくわくしながら材料を用意して(ちゃんと白い布とはさみと綺麗な糸と針をお店で買って用意した。ぬいぐるみのように、きちんとしたてるてる坊主を作りたくなったのだ)それらの材料をきちんと(自分の部屋にある)四角いテーブルの上に置いて、クッションの上に座ってから、てるてる坊主を作り始めた。

 てるてる坊主作りはすごく楽しかった。(時間を忘れるという経験を久しぶりにした)

 白い布で長いレインコートのような服をつくり、首のところに青色の襟をつけて、丸いあたまを作り、そこに緑色ののボタンでふたつ目をつけて、眉毛と鼻と口を青色の糸で描くようにして縫っていった。(がんばった。指を二回くらい針でさして血が出ちゃったけど、たのしかった)

 そうやっててるてる坊主は完成した。(なかなかいいできだった。すごくかわいかったし)

 私はてるてる坊主をまるでお守りのように、このずっと降り続いている雨が降りやんでくださいと願いを込めながら、窓のところにぶら下げてみた。

「お願いします。この雨を降りやませてください」と私は目をつぶってお願いを込めて、お祈りをしてから、目をあけて、つんつんと(生まれたばかりの)てるてる坊主のほっぺたをつっついた。

 私はせっかくつくったてるてる坊主に名前をつけてあげたいと思った。でも考えてみてもなかなかいい名前を思いつくことができなかった。(てるてる坊主に名前をつけることははじめてのことだから、しかたがないのかもしれないけど……)

 私は結局、その可愛らしいてるてる坊主に『てる坊』という名前をつけた。(てる坊は女の子なんだけど、もっとかわいい名前のほうがよかったのかな?)

 それから私はてる坊と一緒に自分の部屋の中で生活をするようになった。

 てる坊がいてくれるようになってからも、私の部屋の中で雨が降りやむことはなかった。てる坊は全然やくにたってくれなかった。(まあ、かわいいからいいけど)

「ねえ、てる坊。雨はいつ降りやむのかな?」とベットの上にごろんと横になって、相変わらず、文句も言わずにずっと窓のところにつり下がっているてる坊を見て、私は言った。

 てる坊はなにもいってくれない。(ただ笑っているだけだった。私がそういう顔になるように、口の糸を笑顔にしただけなのだけど)

 雨は降りやまなかったけど、私には友達ができた。(もちろん、てる坊のことだよ)

 それから夏が終わるころ、八月の終わりくらい、てる坊と出会ってから、だいたい一か月後くらいになって、私はてる坊を窓のところ(カーテンの棒)からとって、ベットの頭の上あたりに、ぬいぐるみのようにして置いた。(てる坊にずっとそばにいてほしかったのだ)

「てる坊はてるてる坊主失格だね。でも別に怒ってないよ。てる坊ががんばってくれているのは、私にはちゃんとわかっているから」とにっこりと笑って私は言った。

 それから、私は、自分が笑っていることに気が付いてすごく驚いた。偽物の笑顔ではなくて、本物のまるで太陽のような笑顔で笑ってた。(そのことに気が付いて、私はまるで石になってしまったみたいに、固まって動けなくなった)私は、まだこんな風に自然と笑うことができるんだと思った。

 それは、きっとてる坊のおかげだった。

 ……私は、てる坊を抱きしめながら、声もなく、静かに泣いた。自然と涙が溢れてきたから、今、私は泣くときなんだと思った。

 その日の夜は、なんだかとってもつらい夜だった。だけど、私にはてる坊がいてくれたから、……私は、ひとりぼっちじゃ、なかったから、……私は、その日のとってもつらい夜をなんとか、かろうじて、生き残ることが、……できた。(……ありがとう。てる坊)


 てるてる坊主のてる坊 終わり

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