8

 「飛行準備完了。行くぞ。」

朝5時、練習機カンナミに乗り、僕らは雲ノ島に向かった。前方は僕、後方は古春だ。学生達は、正規兵より早く離着し、そのうちの1機が先頭を務めた。比良ノ邦は、リアレスと同じく、正規兵と学生の扱いに差がほぼないのだ。リアレスでは、学生だろうと、当たり前のように戦争に駆り出され、殺し合いを強いられてきた。それは、平和な比良ノ邦でも同じだ。有事の際には、大人だろうと子供だろうと関係ない。戦わなければ、殺される。それに、比良ノ邦は、もう平和とは程遠くなった。こっちが攻め込めば、雲ノ島の人達は、必ず出迎えてくるだろう。昨日の追跡も、バレているはずだ。

──10数分後。

平和だった故郷の空が汚れていく様子を見て、古春は言った。

「似合わない……比良ノ邦の空に、こんなの、似合わないっ‼︎」

パイロットにとって、空は夢を描くキャンバスだ。どんなに大勢の人を殺したパイロットでも、子供の頃に夢見たパイロット像はこんなものではないはずだ。本来、飛行機とは、飛行機雲を描きながら、海猫と共に、空を真っ直ぐ飛ぶものだ。こんなに、ちょこまかと動き回るものではない。でも仕方のない事だ。動かなければ、撃ち落とされてしまう。破損した機体から噴き上がる炎と、無惨に海へと落ちていく人々。青い空には、雨のように弾丸が降り注ぎ、硝煙が立ちこめている。たった数分の間に、いったい何人が命を落としたのだろうか。古春が、引き金を引くことを躊躇している中、僕は憎しみを糧に、敵を撃ち落とし続けていた。1機、2機、3機、4機、5機……あっという間に敵機が減っていく。だが──

大型飛行戦艦、これだけは撃ち落とせそうにない。全長110メートルの巨大な鉄塊だ。漆黒の機体は、まるで黒いスーツを身に纏っているかのようだった。比良ノ邦の飛行戦艦、ナナウラは、まだここに到達していない。大型飛行戦艦は、ズンズン進み、着々と桜坂地区の領土に近づいていた。

「このままだとまずい……」

いくら小型の飛行機を撃ち落としても、核である飛行戦艦を撃ち落とさなければほとんど意味がない。僕達は押されていた。戦況はもちろん、その鉄塊の威圧感にも。

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忘れてきたんだ、あの空に @sumire830

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