第1章 第6話 戦役

 はくにいきなり飛びつかれ、それと同時か直後に何かはわからない…いや、それは私の都合の良い解釈だろう。


その音は、聞いたことはないが銃声だと考えられる。


飛びつかれたこと、聞こえた音を含め、情報量多さに頭が回らなくなっていると、その間にはくは何事もなかったかのように立ち上がり、銃声の聞こえた方向に歩き出す。


『この角に隠れててください。絶対に顔は出さずに、

 手で耳をふさいで、目を開けないどいてください。』


『え?あ?うん…』


曖昧な回答しかできない私をおいて、はくは歩いていく。


…はくには「見るな」「聞くな」と言われた




が…


好奇心は猫をも殺す。やはり興味があるというものだ。


バレないように少しだけ顔を出す。


 

 

 そこには私のみならず、少なくともはくと比べても明らかにガタイのいい男たちが3人…


先程の銃声も含め、明らかにはくが危ない状況がわかる。


愛した人の危機に立ち会ったにも関わらず、私の足は…




動かない…


金縛りにでもあったかのように…恐怖で…足が動かない。


もう、怖いものなんて思っていたが年齢なのだが、やはりそのは人間のエゴなのだろうか。


他人のためにはそう簡単に命はかけられない。


そんな動かない足に変わって、私の頭とはくだけは動き続ける。


そうして、止まらないはくはやがてその男たちと話を始めるが、距離が遠くはっきりは聞こえない。


普段の執念を振り絞り、耳を澄ませる。


『あんたら、なんの用だ。

 俺が帰らないことはよくわかってるだろ。』


普段のはくからは想像できないほどに…強気で、怒気を含んだ声。


『んたこたぁ、わかってるけどよ、こっちにも親の命令

 ってやつがあるんだ

 お前さんならよくわかることだろ?


 もとウチの最高戦力兼裏社会最強のお前なら』


『んなことは過去の話だ。

 俺はもう足だって洗って、お前らにはなんにも危害だっ

 て加えてねぇだろ。

 

 それと同じで、お前らだって俺に何もしなけりゃぁ

 それですべて解決だろ?』


最高戦力?裏社会?私にとっては馴染のない言葉が次々と飛び交う。


今はまだ友好的で話し合いができているが、それが長く続くことの保証はなく、先程の銃声が聞こえるときもそう遠くないのかもしれない。


『さっきと言っただろ。こっちも親からの命令なんだ。

 もう一回言おう。

 

 狛枝、組に帰ってこい。欲しいものはなんでもある。

 金も、女も、地位だって名声だってなんだってある。


 あんなくだらない学校でほそぼそやるより、もう一度、

 こっちでド派手に名を轟かせようじゃないか。』


『さっきも言っただろ。俺はもう足を洗ったんだ。

 戻る気はないし、今の生活に満足してるんだ。

 

 何より、名義上人形集団のお前らが汚い手段で得た

 金だの女だの、名声だなんて疎か、お前らのことろでの

 地位なんてもっといらねぇな。』


『言葉ではそう言っててもよ?けっきょく人間ってもんは

 自分の欲求に忠実に生きるもんだ。

 

 口頭でのやり取りだなんて結局意味をなさないんだ。


 別に今ここで答えを出せなんて言わないさ。

 そういう気になったらいつでも言ったらいいさ。

 

 ただ、待たせるほど貰えるもんは減ってくし、

 あまり待たせるとお前の命は保証できない。

 

 どうだ?今なら好条件でウチの組に帰れる。』


『何度も言わせるな。俺はもう殺しなんてやらないんだ。

 どんだけ条件を出したって俺は戻らねぇよ。

 それに、お前とお前の兄貴、舎弟たちのように心を腐ら

 せたくはないんでね。』


『おまっ…!』


喋っている隣の男が声を張り上げる。


『まて』


それを喋っていた男が静止する。


そのやり取りだけで彼らの上下関係と、その信頼性がわかる。


おそらく、誰かが手を出せば全員が襲ってくることも、

容易に想像できる。


『お前…こっち側にいたんだからわかるだろ。

 あんまり俺等の構成員のことを悪く言わないほうが

 いい。いつ暴れるか分からねぇぞ。』


『別に暴れてもらって構わないさ。

 その時は交渉の決裂を意味するがね。


 君たちはあの12代目に言われてるんだろう?

 なのに俺を殺してもいいのかい?


 それとも、まさか俺を降参させたり、無力化できると

 でも思っているのかい?

 

 少なからず、今の君たち…いや君たちの組じゃ不可能だ

 ろうな。

 

 悪いが、そんな腐った信念を持った連中にやられるよう

 なやわな人生は歩んではないのでね。』


『忠告を無視した挙げ句、構成員のみならず親父まで

 馬鹿にしたのは、ひとまず許そう。


 だが、お前はこれまでにやりすぎた。

 裏に誰もいない状況で、お前の行動を隠してくれるやつ

 なんていないんだ。


 何かをすればすぐに問題になる。


 お前は今、他の人間、才能のない人間より高いところ

 にいるから感覚が狂っちまってんだ。

 そこにいるお前が、これまでのことがバレたらすべて

 終わるんだ。


 こっちに来ればすべてのことが秘密として永遠に全員の

 記憶からさっぱり消えてなくなる。


 それで、静かに過ごすだけでいいじゃねえか。』


『あいにくながら、俺はこの国からしたら優秀な人材ら

 しいからな。もし、社会にバレちまっても、国がなんと

 かするだろうな。

 

 なにせ、お前らとは違って、国から求められていて、

 国の信用にも関わるからな。』


『…』


相手が完全に黙る。


今の私には理解できない次元の話…ただわかることは…




押せ押せのはくもかっこいいってこと…だけ


…真面目な話をすると、会話の内容は理解できなくとも、

危険が迫っていることはわかる。


『もう言いたいことはないのか?なら帰ってくれ。

 こんなことろで、クソ野郎と話してるより、気の合う

 クズ同士で話してるほうが楽しいだろ?』


『…』


『兄貴…すみません、限界です。』


『いや、構わない。俺も限界だ。』


『結局暴れるのかい?まあ、無力化する流れじゃないこと

 は今の俺でもわかるけどね。

 

 安心しな、殺しはしない』


『…あんたは暴れすぎた。だが、その体も随分壊れてきて

 るんじゃないか?』


『…』


はくが初めて会話中で黙る。





やがてそこは3つの殺意が空気を揺らす。


本能的に、その殺気はそこら辺のチンピラのものなどではなく、明らかに…その道を進んだもののそれだ。


…それをわかってもなお…やはり私の足は動かない。


自分に何かが起こるわけでもないのに、金縛りが…

冷や汗が…愛した人…はくが傷ついてしまう…死んでしまうことがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。


長く一緒にいたからわかる。はくは何も持っていない。


しかし、彼の正面には3人の武器を持った男…


あまり、助かる道が見えない。

だからこそ、無理だとわかっていても動き、助けに行きたい。


もし死ぬのなら、彼とともにしたい。

唯一、私の認めた、世界で唯一の存在だから。



私は望む。彼が生き残ることを。彼が戦わないことを。

私が動いて彼を助けることを。


しかし、これはアニメのように叶わない。


依然として、私の足は動かないし、戦いの火蓋は切って落とされる。


今後のことも含め、自分の無力さに心から…心から…


真面目な雰囲気を醸し出す男はそっと腰からドスを、ほか2人はチャカを取り出す。


『…チャカとドス抜いたんなら、ある程度の絶望は覚悟

 しろよ』


はくが…冷徹に、彼らの殺気を押し返すほどの殺気を押し付ける。


『黙れ…兄貴と親父をばかにするんじゃねぇ…』


ドスを持った男は非常に素早く、はくに接近する。


一瞬で懐を侵略したかと思うと、心臓を狙った突きと同時に2人から鉛玉が飛ぶ。


『てめぇはもう衰えたんだろ?ならさっさと身を引いてく

 ださいよ!大先輩!』


その凶弾ははくの下半身、上半身をそれぞれ狙っている。


一般的には詰みと言われる状態だが、はくはひらりと体を回転させ、手慣れたかのように弾丸を避ける。


『…肩と目線で丸わかりだ。』


避けた勢いに乗り、つきをしてきた男の腕を脇で掴む。


『お前の突きだって速さは十分だが、動きがわかりやす

 い。俺には当たらない。』


伸びきった腕の肘をはくがおろうと、関節の逆側に力を込める。


それをカバーするかのように男二人が反動に耐え、チャカを構えなおす。


『お前らは邪魔』


目にも留まらぬ速さのチャカの抜く速度と正確すぎる2発の弾丸により、男二人の肩が鉛玉で弾け飛ぶ。


チャカを抜く一瞬のスキでドスを持ち替えた男がはくを

刺そうとするが、すでに見えてるであろうはくは、刺される直前で膝を蹴り飛ばす。


『ッ…!』






同種族、同生物間の争いってもんは大抵は対等な戦いになるよう世界はできてるもんだ。


同じような人間同士なら、努力などで多少差がつこうが、

あくまで多少だ。


しかし、これは基本的な話でのことだ。




この世界には努力では追いつけない次元…才能という極限の差がある。




人はそれを無慈悲だの何だの言うこともあるが、俺は才能を見つけるためだって、他人より努力をした。


何倍も、何倍も。


その結果、得られたのがこの格差だ。



俺は、肘と膝の関節が完全にやられ、うつ伏せになりながらも、ナイフだけをしっかりと持った男の前に立ちふさがる。


奥には肩と腕を撃たれ、傷を押さえながらも銃をしっかりと持ち、俺のことを睨みつけている。


俺はこいつらを知っている。


特に、戦闘面に関しては俺に勝るものはいないと自負できるほどに、こいつらのことはよくわかる。


『うそ…だろ…』


『さすが衰えたってお前らくらいには負けられねぇな』


『…はぁ…結局才能持ちには勝てねぇのかよ…』


『才能を言い訳にするんじゃねえよ。

 あんな設備が揃ってんなら人生捧げるくらい努力すりゃ

 あ俺くらいなら追いつけるだろ。


 お前らは十分に努力してねぇのに才能才能だの言うん

 じゃねぇよ。』


『ハッ…、引退しても説教かい?ありがたいねぇ…』


『まだそんなこと言えるんならもう一箇所くらい折っと

 いたほうが良いかよ?』


『そんな隙さらしたら後ろのやつがお前を撃ち殺すだろう

 よ。』


『まあ、今はお前らを返すことが目的なんでな。

 歩けねぇなら外道のお友達に連れて帰ってもらいな。


 これは捨てとくぞ。』


ナイフを蹴り飛ばし、銃を持った男たち側に歩いていく。


『まあ、この実力差がわかったならもう来んじゃね…』


…ナイフの男がチャカを持ってるのに気づく。


利き手の関節が折れてるおかげか、まだ撃ててはなくともその照準はさっきまで俺らがいた道の曲がり角に向いている。


正直、想定してなかった訳では無いが、流石に逃げているものだと思っていた。


今のやつはおそらく痛みを与えても止まらない。

危害を加えたとしても、おそらくやつは打ち切るだろう。


いやあいつなら撃つ。おそらく奴を蹴飛ばしたとしても、古明地にはしっかりと当たる。



『ハッ!油断すんな馬鹿野郎!

 息の根止めてない相手に背を向けるとはなぁ!


 やっぱ、衰えたかぁ!?』


そこから導き出される行動は、









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