第35話
あの先輩のことだから、どうせ寝るかパソコンで何かしてるか女の子と遊んでるのどれかだろう。
濡れた髪を拭きながら、部屋に戻る。髪を乾かしたら、もう特にやることがないな。
寝れば良いんだろうけど、椅子に座ってぼんやりしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「茉白。」
「姉さまこんばんは。姉さまとお話しようと思ったのだけど……」
お風呂から上がった私の格好を見て、茉白が眉を下げる。
「もう寝るところだったかしら?」
「大丈夫よ。」
茉白を部屋に招いてソファに座る。
「あのね、姉さまに家に帰って来るように言ってって頼んだのは私なの。」
そういうわけか。あれ以上話すことが無いなら、メールで済ませればいいのにと思っていた。可愛い茉白の頼みなら父が私を呼ぶのもうなずける。
私はてっきり、例年通り準備を手伝わされると思っていた。でも今年は空けとけとしか言われてないから、もう関わるなってこと?
「姉さまとは、初雪さんとのお食事の時ではあまり話さないから……」
でしょうね。私自身話そうとしないし、茉白と初雪さんの二人で会話が弾んでいるんだから。
茉白のことは、呆れこそすれど別に憎んでいるわけじゃない。どうかと思っているのは初雪さんの方だ。
心変わりしたならその旨を伝えて、婚約のことだって変えてくれればいいのに。私はいつまであの人の婚約者なんだろう。
初雪さんのことは好きだった。多分それは、今でも変わっていないはず。
それでも前ほと自信を持って断言できないのは、疲れの方が大きくなってしまったからだろうな。
自分のことを絶対に振り向いてくれない人を想い続けていられるほど私は強くない。
むしろ私は傷つきたくないのだ。
お互いに惹かれ合う二人を前に、私はいつまで婚約者を名乗り続ければいいの?
何のつもりか、父も許嫁を私から茉白に変える素振りを見せないし。
「姉さま?」
私が一人考えに耽っていると、茉白が心配そうに声をかけてきた。
茉白との会話では基本、私は聞き役に徹することが多い。今もそうだ。半分くらい聞いてなかったけれど。
「茉白、もう遅いから部屋に戻りなさい。」
「はい……」
そんな寂しそうな顔しなくても、私は明日もここにいるんだから。
「また明日ね?」
そう言うと、茉白は少し元気を取り戻したように微笑んだ。
「はい! 姉さままた明日! おやすみなさい。」
茉白が帰った後、私はベッドに入って天井を見上げていた。
わりとすぐ寝れるかな、と思ってたんだけど、中々そうもいかず。
あずき先輩の家のふっかふかなベッドに慣れちゃったから? このベッドもそれなりのもののはずなんだけどな。
一人で寝るのも、いつぶりだろう。先輩がどっか行ってる時も一人で寝てたけど、人の家でってのと自分の部屋でってのはまた違う。
まぁ、そのうち寝れるだろうと私は瞼を閉じた。
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奪ってみてよ、先輩。 七夕真昼 @uxygen
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