牛丼が、まずい

白川津 中々

◾️

仕事帰りに牛丼屋へ入ると負のオーラを感じた。


客席はほぼ満員。狭い通路を進みなんとか着席して周囲を観察してみると他の客は皆例外なくくたびれたスーツを着たサラリーマンで疲れ切った顔をしている。お前ら家庭で食事はないのかと思ったが時間は22時。残業で腹ペコだったり遅くなるからいらないと連絡したりしているのだろう。お疲れ様である。

かくいう俺も同じだ。急に入ったトラブル対応による不本意な時間外労働。心身共に急性疲労に苛まれ安くて手軽なセロトニン分泌を求めて牛丼屋にやってきたのだ。作り置きしたヘルシー料理よりワンコインの庶民飯。脳が搾られた時はこれに限る。




「牛丼並」




店員にオーダー。1分後に着丼。早い。薄い牛肉を噛み締め飯を頬張る。肉の量は少ない。




帰ったらなにしよう。




出汁に浸かった米を咀嚼しながら帰宅後の予定設定について考えるも、特に入れるスケジュールはない。風呂に入って歯を磨いて寝るだけだ。楽しみも喜びもない。過ぎていく毎日。死なない程度に働いて死なない程度の金を稼ぐ。その日を生きる動物としては正しいかもしれないが人間としては……




誰も助けてなんてくれないんだよなぁ。




脈絡もなくそんな事を思った。

牛丼が、まずい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

牛丼が、まずい 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ