@tookkiii

第1話

高校生になって三ヶ月が経った。未だに休み時間に話す友達すらできていない。中学の時、クラスの陽キャに「あいつ、めっちゃ陰キャじゃね笑、チー牛顔ってやつ?いかにもじゃん笑」とバカにされて以来自信をなくし、人と上手くコミュニケーションが取れなくなった僕は高校に入っても変わらず、静かに過ごしていた。当然友達はいない。「あーあ。もっとカッコいい顔で生まれてたらなぁ〜 自信が持てて、友達もいっぱいできただろうな… 朝起きたら◯田真剣佑みたいな顔になってないかな…。」そう思いながら就寝した。


ピピピピピ…ピピピピピ…

アラーム音で目が覚めた。「ふぁ〜あ」眠い目をこすり、顔を洗いに洗面所へ行く。「ん?

あれ?」毎朝見ている顔が、いつもの顔じゃない。コンタクトをガーンつけてもう一度みた。「え、、真◯佑やん…」何度も頬をつねっても、この顔は変わらない。中学時代、陽キャにバカにされたこの顔とはおサバラだ!「ヤッターーー!!!」望みがかなった!起きてきた家族も驚き、ちょっとした騒ぎになった。中身は自分のままだということを必死に説明し、なんとかみんな受け入れてくれた。一方、イケメンになれた自分は、この顔なら女子からの人気が爆上がりするに違いない。もしかしたら大好きなあの子にも好かれるかも、、なんて妄想を膨らませながら、学校へ向かった。

教室に着くと、みんなが僕を不審がって見ている。それもそのはず。見たこともないほぼ真◯佑の男が、僕の席に堂々と座っているのだから。チラチラ視線は感じるものの、誰にも話しかけられることなくHRが始まった。キーンコーンカーンコーン… バタバタバタッ チャイムが鳴り終わり、慌てた様子で先生が教室へ入ってきた。「ふぅ、すみません、遅れました。じゃあHRを始めま…しょう、か。ん?あれ、きみ誰?」と少し動揺しながら僕に尋ねた。「あ、田中です。」僕は正直に答えた。すると、「ええーー!」 みんなが驚き、教室が少し揺れた気がした。このときは誰もこのイケメンが田中だとは信じていなかった。

その後、職員室へ行き、両親の協力もあってか、先生方にはなんとか受け入れてもらえた。というか、この事実を飲み込むしかないといった感じだった。教室へ戻ると、想像どおり、男女ともに話しかけてくれる人が増えた。やっぱり顔なのかと思いながら、クラスメイトの質問攻めに戸惑っていると、「田中くん、カッコいいな!」 今朝から一番に言われたかった言葉が、不意に耳に飛び込んできた。声の主を探すと、まさかまさかの大好きなあの子だった!ドキドキドキドキ… 心臓の鼓動がうるさくて、他の言葉は耳に入ってこなかった。

「あ、あ、ありガトウ…」こう返すのが精一杯だった。その後のことはあまり覚えていない。


1ヶ月後、自信を持って過ごすことができた俺は、陽キャの仲良しグループに混ざり、いわゆる一軍として、充実した日々を過ごしていた。クラスであまり喋らないやつがいれば「陰キャやん笑」とバカにし、自分の意見に反対するやつがいれば無理矢理にでも自分の意見を押し通した。何でも自分の思い通りになるような気がしていた。そして俺は、今まで思いを寄せていたあの子に告白しようと考えた。当然付き合えると思っていた。



ピピピピピ…ピピピガチャッ

思っていたよりぐっすりと寝れたようで、上機嫌に学校へと向かった。教室へ着き、まっすぐあの子のもとへ向かう。「今日の放課後、中庭で待ってて」そう伝え、自分の席につく。帰りのHRが終わり、とうとうこのときが来た。中庭はなかなか目立つようで、何人かは窓から聞き耳を立ててたり、遠くから様子を伺ったりしている。いざ向かい合うと緊張してきた。大丈夫だ、俺は一軍なんだから。


「好きです!付き合ってください!」


シーン


え、、何この静寂。怖いんだけど。「私もです」とか、「こちらこそよろしくお願いします」とか、なんでもいいから早くOKの返事をしてくれ…!


「あー…こういう告白されんの初めてだから、なんて答えたらいいのかわかんないんだけど、、、ごめん!いくらイケメンでも中身がな、、ちょっと無理かも。あとそもそも俺、男は無理だから! じゃ、俺部活あるから、またなっ」


えっ


彼の言葉はすぐには理解できるものではなかった。…このおれが振られてしまった。。  涙で視界が霞む。クスクスと笑い声が聞こえた。周りで見ていた奴らのものだろうか クソッタレ!。。「くそがぁぁぁぁぁ!!!」振られてしまった悔しさとそれを見られていた恥ずかしさが一気に襲ってきた。


この日俺は、大事なものに気付かされた。これまでの自分の行動を振り返ればすぐにわかった。顔がカッコよくなり、仲のいい友達ができ、全部思い通りになると勘違いしてしまった。そして、他人を傷つけてしまった。同時に、同性愛の難しさも。この出来事は一生忘れられないものとなった。


それから僕は、謙虚な姿勢で、仲間を、クラスメイトを、他人を尊重して生きるよう努めた。インターネットや本を使って、同性愛者の生き方の難しさを理解した。どんなに辛いことがあっても、このことを思い出して必死に生きてきた。気づけば元の顔に戻っていたが、自分の顔は、とても輝いていた。

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