第5話 世界最強の吸血鬼

 吸血鬼という単語ぐらいは知っている。


 昔から江戸でも鬼という妖怪はいたが、ほとんど噂話だ。


 鬼と吸血鬼は人を殺すという点では同じだが、本質は違う。


 前者は異形にして、殺戮を好む。


 後者は人間と似た姿を持ち、魅了して吸血したり眷属にする。


 俺が知っているのはこれぐらいだ。


 目の前にいるのが、本当に吸血鬼なら既に魅了されているはず。


 けど、なぜかドキドキしたり熱を帯びていない。


 それどころか、平然としている。


「……本当に、吸血鬼のようですね。いきなり幼くなりました」


「幼くなったというのは、少し語弊がある。最初から私は、この姿だった」


「どういうことですか?」


「レパードに会ったのは、私が12歳の時と言ったわよね。その前、実は吸血鬼に血を吸われたことがあるの」


「その吸血鬼さんに、母様は血を吸われて吸血鬼になった。その後、衰えることもなく12歳の少女として、活動を始めたと」


「その通りよ。驚いた?」


「ええ、驚きました。こんな事実を知って、落ち着いている自分に」


「ふふ、だから言ったでしょ?レイ、あなたは他の子とは違う」


 彼女は俺を静かに抱いた。


 甘い匂いが漂い、男の理性を乱してくる。


 12歳の美少女と5歳の……周りからしたら、姉と弟にしか見えない。


 華奢な体型だというのに、綺麗な形と大きさをした胸に顔が当たった。


 柔らかい……そして、暖かい。


 これは、ただの体温なのか。


 それとも、母性かな……。


「なぜ、父様と結婚したのですか?」


「私の血を受け継いで、吸血鬼としての力に適応できる子供が欲しかったから」


「父様に見せていた姿は、魔法による偽装ですか?」


「ええ、そうよ。あの人が見ていたのは、12歳から20代まで普通に容姿が変わる人間……すなわち、シャリーというただの人間」


「じゃあ、名前も……」


「私の本当の名は、エリュミア……わずか、5歳で家族を失い、吸血鬼に救われた少女よ」


 静かに優しく微笑みながら、俺の頬を両手で掴んた。


 そして、ゆっくりと顔を近づける。


 5歳の俺はただポカンとしていた。


 なぜだろう、さっきから何も考えていない。


 銀色の髪は俺の肌をくすぐり、赤い瞳は煌びやかに輝いている。


 そんな彼女を前にして、立ち尽くすだけだ。


 エリュミアは唇を俺の唇に当てようとしたが、予想は違っていた。


「はむ……」


 首……首の柔らかいところを甘噛みしてきた。


 段々と体が熱くなり、だが妙な心地よさが襲って来た。


 得体の知れないものが体中を駆け巡り、自分自身の感覚すら分からなるほどだ。


「あむ……んん……はむ……」


 エリュミアは俺の首の柔らかいところを、丁寧に貪る。


 その度に、体が震えてしまう。


「……あ"あ"ぁ」


「ふふ、可愛い声……どうやら、あなたの血は吸血鬼として、既に適合しているみたい」


 エリュミアは優しく微笑みながら、口を離した。


 噛まれた跡を舌で舐め、俺の体を抱きしめる。


 そして、耳元で囁いた。


 まるで、悪魔の囁きのように……。


「あなたはこれから、吸血鬼としてこの国を滅ぼす」


「ふぅ……ふぅ……どういうことですか?」


「未来の話よ。あなたには人間の世界を終わらせ、吸血鬼の時代を創ってもらうの」


「僕にそんなことが……」


「出来るわ。吸血鬼の力に順応し、並外れた知性と肉体を手に入れた……もちろん、それだけじゃない」


 エリュミアは俺から離れて、箱から本を手に取る。


 その本は、赤と黒で染められ、表紙には美しい吸血鬼が描かれていた。


「10歳になるまでに、この本に書かれている剣術と魔法を習得してほしいの」


「魔法書とか剣術書は他にもあります」


「この本は、そこら辺にある書物とは訳が違う。これはね、吸血鬼の初代お姫様が書いたものよ」


「姫?」


「多くの吸血鬼達は剣神、天神、妖精王達と戦い、勝利し、国を繁栄させてきた。あらゆる強者に立ち向かえる強さを、この本にして書いたのが姫様よ」


「……今も生きているのですか?」


「既に死んでいるわ。今は、娘が後を継いでいるけど、なにせ若いから……あまりも計画性がないというか、落ち着きがないというか……」


「今のお姫様がこの国を滅ぼすことは……」


「人間の時代を終わらせるということは、ランドリア王国だけじゃなくて他の国も滅ぼすということよ。今の姫様は強いけど、初代様程じゃない。だから、私達はそれぞれの国に侵入して計画的に滅ぼすことにした」


「計画的にとは?」


「この国のお姫様を殺す、もしくは吸血鬼にする」


「そ、そんなこと……」


「剣帝、剣聖といった強い剣士、帝級魔術師などがいるから、簡単にお姫様を狙えるかどうかはわからない。けど、この本を読み、全ての技を習得することで、あなた一人でも国を滅ぼせるよ」


 いきなり国を滅ぼせとか、吸血鬼の技を覚えろとか……。


 常識的に考えて、こんなことを聞いて冷静な奴いるのか。


 なぜか、それを俺は既に理解していた。


 先程、血を吸われたおかげで、何か吸血鬼の本能が目覚めたのかもしれない。


「もし、この国のお姫様を吸血鬼にしたら、彼女はあなただけの雌にできるけど?」


「わかりました、なんとかやってみます」


 すぐに俺は了承した。


 この国のお姫様を新聞で見たことあるが、かなりの美少女だ。


 そんな彼女を俺だけの雌にできるのだから、むしろ良い話じゃないか。


 だが、そんな俺の反応が意外だったのか、エリュミアは驚いた表情を見せた後、微笑んだ。


「吸血鬼の本能が目覚めているのね。私としては嬉しいけど……ふふ、ちゃんと国を滅ぼすことも忘れないように」


「わかっていますよ」


 どうやら、俺はかなりの変態だったようだ。


 まあ、いいか。


 この本に書かれていることを習得して、最強の吸血鬼としてこの国を滅ぼしながら、可愛い女の子だけを自分のものにする。


 人間としての人生は終わったけど、色々楽しみだ。


 幼い俺は、今日……吸血鬼になった。

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世界最強の人斬り、吸血鬼になる~なぜか吸血鬼になったけど、色々とご褒美があるので、今から人間の時代を滅ぼします~ 転生 @tenseitensei

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