変身

@abc124810

第1話

N氏は一般的なサラリーマンであった。

午後9時、彼はいつものように会社を出て、電車に乗り、家路を辿り、ドアを開ける。

「あら、おかえりなさい」

「パパおかえり〜」

彼の耳に妻と子供の声が入ってきた。

数カ月で小学生になる彼の子供が彼へ駆け寄ってきた。

「やめてくれ…疲れてるんだよ」

彼は子供を無視し、自分の寝室へと入る。

「ねえあなた、ご飯出来てるんだけど」

「いや、今日はもういい。疲れてるんだよ早く寝かせてくれ」

「そう…」

彼は妻の返事を小耳に挟みながら、寝室のドアを閉める。寝室の床には脱ぎ捨てられた洋服が散乱していた。

「はぁ、いつか片付けないとな……」

彼は脱ぎ捨てられた服たちを無視しスマホを片手にベッドへ潜り、いつものようにネットサーフィンをする。

「ちくしょう…こいつらだけ毎日良い思いをしやがって」

情報と共に頭へ流れてくる劣等感は彼を支配し、うんざりした彼はスマホを充電器に指し眠りについた。


翌朝、彼はいつものようにスマホのアラームで目が覚めた。

彼はシャワー室へ向かおうとベッドから起きようとしたが、なぜか身体が動かない。10分程度もがいていると、妻が起きてきた。

【なあ、何か身体が動かないんだ。起こしてくれないか?】

しかし妻はその声を無視し、ドアを開けようとする。

すると彼の妻は何かに驚いて、彼のベッドへと駆け寄ってきた。

【なあ、なんか驚くことでもあったのか?】

妻は彼を一目見てから、ただでさえ驚いた顔は鳩が豆鉄砲を食らったような酷く狼狽したような表情になっていた。

【なあ、だから何があったんだよ】

「あなた…?あなたなの?」

【そうに決まってるじゃないか】

「でも貴方…身体が…」

妻はパニックになりながら、手鏡を持ってきて彼に見せた。


鏡に映ったのは、スマホの画面だった。N氏は自分の顔がスマホの画面に変わっていることに気づき、愕然とする。

【これは…どういうことだ…?】

彼は叫びたかったが、声は出なかった。スマホの画面には、叫ぼうとした自分の悲鳴が、無機質なデジタルの文字に変わって移されているのを彼は絶望感に浸りながら見ていた。


彼は仕事を休む電話を自分の身体から掛け、自分の病気を研究している医者の病棟へ行った。


「これは中々重篤な患者が来ましたね。

まぁ先ずは軽く症状の説明をしましょう。この病気は身体携帯機器変身症といい、近年世界で拡大している病気なんですよ。

失礼ですがN様、最近スマホに依存したりはしていらっしゃいませんか?」

【ええ…多少は】

「これがこの病気の発生源なのです。まぁだから今後この病気はより拡大していくと学会では言われていますが…閑話休題、症状のお話をしましょう。この病気の患者の症状は、見てもわかる通り身体にスマートフォンの機能が付くことと、攻撃性の増大、他者への依存性の減少、それに比例せる………」

彼は無限に続くような医者の説明を遮り、顔へテキストを表示させる。

【それで先生、私は治るのでしょうか】

「難しいところですね。幾分まだ症例が少ないもので。しかし、この病気はあくまで精神疾患によるもの。数人の治った患者によれば、人と関わり合い、自分が治ろうと思うことで治るのだそうです。ようするに気の持ちようですね。」


N氏は医者の言葉に納得できず、家に戻った。

【なあ… 治るのかなぁこの病気は】

「ええ、きっと治るわよ それまでは仕事休んで治療に専念しましょ」

彼の妻は憐憫するように話しかけたが、彼は言葉の中にある微妙な喜びに気が付き、ぶっきらぼうに返事をし、寝室へ行き自分の身体てまネットサーフィンをしながら眠りについた。

次の朝、目が覚めた彼がリビングへ行くと、先客としてソファーに座っていた彼の妻が彼に話しかけた。

「ねぇ… 今日土曜日でしょ? 何時もは休日デモ出勤してるけど今日からは行かなくても良いんだから子供達と遊んでくれない?」

【あのな、 俺は病気なんだよ それに今まで毎日大変だったんだったのに少しの休みがあればまた何か押し付けるのか? 少しは俺に協力してくれよ】


彼は怒鳴り声を上げる妻を無視し寝室へ行き、鍵を締めた。それから数日経ったある日、彼はふとリビングへと戻った。

そこには誰もいなく、置き手紙があり、妻は子供を連れて家を出て行ったという事を彼は知らされた。 彼は一人取り残され、孤独感に苛まれ、数年前まてま持っていた彼の家族への愛情を思い出したが、既に時は遅く、その感情は怒りへと変わっていった。

彼がその感情の標的としたのは、同じような境遇の人間であった。

【はは… 医者もこれから増えていくって言ってたけどここまでこの病気は急拡大するもんなんだな…】

【今考えると、オレは不幸な人間だよ。 仕事をして自分を愛さない家族を養い…その家族に捨てられる… 俺は同じ病気とはいえこいつらとはまるで違うんだよ…】


数年後後、誰も住んでいない家を解体しようと業者が入ってきた。

「なぁ… ここに妙にデカいスマホが置いてあるんだが」

「前住んでた奴の残したゴミだろ?捨てちまえよ」

男はそれを持ち上げ、袋へ入れ再び作業へ戻っていった。

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