大罪
@a_1109-shu
大罪
この三ヶ月、怖かったけどなにか自分の力になったんじゃないかと思う。この気持ちを忘れることがないようにここに綴っておこう。
僕は高校3年生。軽音楽部に所属して、将来は某音楽番組に出たり成功をすることを夢見るごく普通の青年だった。軽音楽部としての最後の大会がもう三ヶ月後に迫っている。早くいい曲を作りたい。最近はその気持ちだけが空回りしてかえって何も思い浮かばない。
ある晩、考えていたところで何も思い浮かばなくて僕は隣街に古くからある老舗の楽器店を訪れた。この楽器店はほんとに街の隅っこに位置していて見つけられなかった。
カチャリと音がして店のドアを開く。そこでは優しい表情をした老婆が座っていて
「おや、何を探しているんだい?こんなとこに若いもんが来るなんて何十年ぶりなんだろう」
といい、朗らかに笑った。
「ええ、僕はどうやら物好きらしいです。ここにアコースティックギターを探しに来ました。色々な種類のギターを弾くのも楽しいもので。」
僕の話を聞いて老婆は一つの質問を投げかけてきた。
「お前さんは曲を作っているのか。」
「はい、高校の軽音楽部です。最後の大会までにいい歌を作りたいんですが、なかなか難しいようでうまく行っていないんです。」
僕の話を聞いて少し考えた後、店の奥へと行き
「そうかいそうかい、ならこれをあげてもいいだろう。」
と引っ張ってきたのは色がやや剥げているギターだった。
「このギターには不思議な力が宿っているんだ。私ももう先が長くない。早めに誰かに渡しておきたかったのだけど、あなたにこれをあげることにしよう。」
「そんな大事そうなものを僕にいただけるんですか?」
「ああ、君はいい目をしている。これをあげてもしっかりと使ってくれるだろう。」
この短時間でこの老婆は僕のことをずいぶんと信頼してくれたみたいだ。
「なら頂いてもいいですか。」
「ああ、この子のことよろしく頼んだよ。」
「はい」
手渡された瞬間になんだか不思議な感覚に囚われた。僕自身を包み込んでくれるような、そんな強大な力だった。
家に帰った瞬間、僕の頭の中でメロディが次々と浮かんできた。それを徹夜で録音し、新たにできた曲はバンドメンバーからも高い評価を受け、この曲を放課後演奏していると次第に人が集まってくるようになった。
すごい、あのギターの力はこんなにも強力なのか。この一ヶ月の間に、勝負ができる曲を作り上げることができたのはあの力のおかげなのだろう。でもどこかあの力に頼り切ってしまった自分が少し情けなくなるようなそんな気持ちにもなった。
ギターの力は実に強大で、僕はすっかりその力の信奉者になった気分だった。
軽音楽部内で定期的に行っているライブでは、トリを任せてもらえたり、僕たちは順調に成長を続けている。ライブ後にある女の子が声をかけてきた。
「ライブめちゃくちゃ良かった!」
彼女は入部当初から期待の新人として一目置かれていた存在であり、ルックスもスタイルもよく、人当たりもいいという素晴らしい人間だった。話したいとは思っていたが、部員も多くなかなか話す機会が得られないのだった。そんな彼女から話しかけてくれたのだからそれは嬉しいに決まっている。僕はすっかり興奮して早口でまくしたてるように話した。その時はお互いのバンドに関して色々と情報交換をして連絡先を交換して別れた。
そこからは彼女のことを見かけるたび、いや見かけなくても連絡を取るようになった。そう、僕は彼女に恋をしていた。
ライブが終わった後、いつものようにカフェで情報交換をしていたとき、僕は唐突に
「好きです!もしよかったら付き合ってもらえませんか?」
彼女はただでさえ大きな目を最大限に大きく開いて、照れた笑みを受かべた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ライブでの人気は右肩上がりに上がっていった。ライブ後は話したこともないし友達がねらっていると噂されている可愛い女子達が
「彼女いるの?」
「連絡先おしえて」
と聞いてくるようになった。
「ごめん、彼女いるんだ」
絶好調のバンドのギターボーカル、友達もたくさんいる。それに可愛い最高な彼女もいると来た。こんな事が起こっても調子に乗らない理由はない。俺は完璧に自分に酔っていた。
次第に俺は自分自身のギターの力に取り憑かれていった。俺は音楽の魔法に依存し、他のことを顧みなくなってしまった。
またライブの翌日、目が覚めると、なんだか冷たい場所で横たわっている気がした。目を開けると目の前には大きなガラスがある。狭い部屋の右手には鉄製のドアがあり、押しても引いてもびくともしない。その時に気づいたが俺の手には金色の毛が生えているのに気づいた。自分の体からもおんなじ毛が生えていた。何なら四足歩行になっている。
俺はライオンになったのか。なんで、何が理由なんだ。俺は自分の人生を顧みてみたが、ことの元凶はあの楽器店の老婆なのではないか?何してくれてんだ、あの老婆。そんな事を考えていたらドアの外から声が聞こえてきた
「出ておいで」
ドアが開く音がして、ある少年が顔をのぞかせた。
「少し君と話したいことがあるんだ。」
歩きにくい四足歩行で外へと出る。外に出た瞬間にほのかにまばゆい光が僕を照らす。美しい満月が輝く夜だ。思わず足が止まっていた。
「月見て足を止めるなんて、思ってたよりも風流人なのかな。」
そうだ、彼は何をしに来たんだろう。おそらく展示スペースに植えてある高い木の枝に、彼は座っていた。
「君は何をしに来たんだ。」
「あれ、さっき言わなかったっけ。君と話に来たんだ。」
「話?」
「ああそうさ、君の大罪についてだよ。」
「大罪?」
「うん。カトリックで君を死に至らしめることのできる7つの欲望のことさ。君は今傲慢を表す獅子、つまりライオンになった。このライオンも老人でね、後数ヶ月しか生きることができない。君がこのライオンになったままなら、人々の記憶からも君の存在が消えてしまう。君の彼女も、家族も、友達も、全員から君の存在がなかったことになるんだ。」
そんな簡単に言われたってなんもわかんないよ。
「俺はそんなに悪いことをしたのか?」
「そう、でも僕からはそれについて教えることはできない。それを自分で気づいてこそ君は元の姿に戻ることができるんだ。」
少し考えてみたけれど、なにか思い当たるのはギターのことで、ギターのせいだとしか考えていなかった。
「ま、僕が伝えたいのはそれだけさ。」
と言いつつ空へと羽ばたこうとした瞬間、振り返って言う。
「そうだ、いい忘れてたけど、君が一日のうちに人間の思考ができるのは3時間だけだから気をつけなよ、一瞬で終わっちゃうから。」
「・・・」
なにか意図があって黙っていたわけではない。絶望しすぎて何も考えられていないんだ。どうすればいい、みんなの記憶から僕という存在が消える?そんなの考えられなさ過ぎる。
そのうち夜は明け、月は沈み、太陽が昇ってきた。それと同時に意識が遠のいていき、次に意識が覚醒したのはまた夜だった。
今日は夜も営業しているらしく、展示スペースの前にある広場には人がたくさん集まっている。何があるのかを見に行くと、有名なシンガーソングライターがきているようだ。僕も人間だった頃は曲をよく聞いていたものだ。
ふと見ると、ある女の子が涙を流して聞いているのを見かけた。なんで彼女は泣いているのかを考えると、彼は彼の伝えたいことを全力で歌に乗せて表現しているんだと気づいた。俺は、どうだ。ギターの力にうぬぼれて、自分の気持ちなんか曲に乗せたことなんてなかった。誰かに認めてほしくて、認めてもらうことが目標になっていた。自分のことを伝えるのが目標のはずなのに。それに気づいたとき、不意に涙が出てきた。俺は今まで何をやっていたんだろう。これじゃ彼女にも友達にもいい顔はできねえじゃねえかよ。もっと大切にしてやればよかった。
僕は深く慟哭した。
「それに気づいたならもう戻してもいいかもしれない。」
頭の上から声が降ってくる。
「君は、」
「こんなに早くに気づくなんて予想外だった。」
彼は笑みを浮かべていた。
「これからの君に期待しているよ」
その言葉とともに意識は遠のいていく。目を覚ますと、そこは部屋のベッドで、戻ってきたんだと実感した。
その夜、ギターを手にしてこれは返そうと覚悟を決めた。隣町へと向かう。
この前のように店が存在しているわけではなかった。ほんとにあのときだけ現れたお店なのかもしれない。
しかし、地面には一枚紙がおいてあるのを見つけた。
若者よ、あのギターは今のお前さんなら使いこなすことができる。
期待しておるぞ。
その二文だけだったが、僕に対しての信頼が感じられる。
その信頼に応えられるように頑張ろう。
時は過ぎ、最後の大会となった。俺は自分のオリジナル曲を披露することにし、その曲には僕が経験した孤独や再生の物語を込めた。
ステージにあがり、僕は緊張しながらも、観客の前に立った。僕の心には、音楽の魔法がもたらした力と、それを他者と分かち合う喜びが満ちていた。
演奏が始まると、俺は自分の感情を全て込めて歌った。僕の声は、聴く者の心に直接響き、会場全体が僕の音楽に包まれているのを感じた。
演奏が終わると、会場は大きな拍手に包まれた。僕は感謝の気持ちでいっぱいになり、観客に向かって深くお辞儀をした。僕は、音楽が持つ力が自分自身を変えただけでなく、他者にも影響を与えることができることを実感した。
これで長い自分語りは終わり。途中で語尾が俺になったりしているのは自分の気持の持ちようによることなんだと思う。これは忘れたくない記憶だ。
大罪 @a_1109-shu
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