はねの力

とことこ

はねの力

ある村でユズハという少女が静かな日常を送っていた。農業を生業にし、両親と共に穏やかな日々を過ごしていた。その村の人々からは、真面目で勤勉な少女として知られていたが、彼女自身はどこか物足りなさを感じていた。本当は閉塞された村にいるのではなくもっと自由に動けるようになりたいと思っていた。夜になると、ユズハは窓から見える満天の星空を見上げ、いつか人の役に立てることがしたいと夢見ていた。

ある晩、ユズハは村の外れにある古びた神社を訪れた。神社には古い伝説があった。それは「一度だけ、真の願いを込めて神に祈る者には、未来を変える力を授ける」というものだった。ユズハは神社の伝説を思い出し、今の状況を変えようとこの神社を訪れたのだった。そしてユズハは心の中で強く願った。

「自分の人生の中に、何か特別な意味を見つけたい。」

その瞬間、目をつぶっていたユズハは視界が少し光ったように見えた。しかしユズハが目を開けると目の前には月に照らされた神社があるだけで光っていなかった。ユズハの祈りは夜の静寂の中に消えていった。

翌朝、ユズハは昨日の光を思い出し、何か変わったことはないか確認したが、ユズハに何も変わったところはなかった。ユズハはもしかしたら神社の伝説は嘘なのではないかと思いながらも、昨日感じた光だけを頼りに、心の奥底にわずかな期待を抱えていた。すると、その日からユズハの周りで不思議な現象が続くようになった。今までは村の近くではあまり見なかったのに、彼女の周りに舞い降りる蝶々たちが急に増えたのだ。蝶たちはユズハの周りをずっとくるくると舞い続け、どこに行くにしても必ずついてくる。まるでユズハに何かを伝えたがっているかのように蝶たちはユズハの周りにい続けた。

ユズハは次第に蝶々たちに惹かれるようになり、毎日のように森へ通うようになった。ある日、彼女は森の奥深くで一匹のすごく美しい蝶を見つけた。その蝶は今までユズハが見たことがない蝶で、鮮やかな青と金色に輝き、普通の蝶とは比べ物にならないほどの美しさを持っていた。蝶はユズハの周りをひらりひらりと飛びまわり、そのうちに彼女の手にとまった。ユズハはその瞬間、手先から体内に温かいエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。それはユズハが今まで感じたことの無いものだった。

その夜、ユズハは不思議な夢を見た。夢の中で、彼女には大きな蝶の翼があり、蝶の群れと一緒に空を自由に飛び回っていた。海の上も海を越えた先も自由に行くことが出来た。その夢はユズハに開放感と興奮を与えた。目が覚めた時、彼女の体には少しの変化があった。肩甲骨のあたりに、ほんのり光る跡が残っていたのだ。そこは確かに夢の中でユズハに翼が生えていたところだった。光の跡は午前中のうちに消えてしまったが、その日から毎晩同じ夢を見るようになり、目覚めると必ず光の跡が残っていた。跡は日に日に光を増し、残る時間も長くなっていった。

数日後、ユズハはもう一度森に行き、青と金色の美しい蝶々に触れると、自分の体に変化が起こることに気づいた。彼女の肩からは小さなはねが現れ、少しずつ大きくなっていった。周りの蝶たちがユズハを誘うように周りをくるくると飛び回ってから空に飛んで行った。最後に青と金色の蝶が飛ぶのと同時にユズハの体がふわっと浮いた。ユズハは始め「わっ」と驚いたが、はねを動かすことで夢と同じように自由に飛べるようになった。彼女はその能力を使って、村の外の広大な世界を探検することにした。

ユズハは、自分自身が飛ぶことで新しい視野を持ち、見たことのない景色や生物に出会った。海を渡り、見えてきた島の砂浜に1人の青年がいることに気づいた。その青年はユズハを見るとひどく驚いた顔をした。ユズハは見られてはいけないものを見られてしまったように感じ、引き返し始めた。

「ちょっと待って!」

と声をかけられ振り向くと、青年がユズハにこっちに来るよう、手招きをしていた。ユズハが砂浜に降りると、彼はロウと名乗った。ロウも蝶のようなはねを持ち、自由に飛ぶことができるという。ユズハは自分以外にも同じような人がいると知り、驚きつつも嬉しかった。その話をきっかけに2人は蝶のはねをもった経緯や趣味など、たくさん話し、意気投合した。しばらくユズハはその島にとどまり、毎日ロウと砂浜で話していた。2人で飛び回ることもあった。

ある日、いつものようにふたりで話していると、ユズハは以前よりも砂浜が暑くなっているように感じた。ロウに聞くとロウも少し前から違和感を感じていたらしかった。暑いのが苦手な2人は少し北の砂浜に移動することにした。しかし、少し経つと北の砂浜も暑くなってきた。そこで2人は気候変動により、島全体の気温が上がっていることに気がついた。この島は農業で生活している人たちが多かったため、気候変動で大雨が多くなると被害が大きくなると考えた2人は、島の農家たちにビニールハウスを活用してほしいと伝えた。最初は相手にもされなかったが、2人の説得の結果、多くの農家がビニールハウスを活用するようになった。しばらくして、気候変動で干ばつになったり、逆に大雨の被害にあったりして周りの島が凶作に陥る中、ユズハたちの島は対策していたおかげで安定して収穫することができた。

その後、ユズハは自分自身に違和感を感じるようになった。ロウと飛んでいてもすぐに疲れてしまい、長く飛べなくなってしまっていた。そろそろ飛べなくなる、と悟ったユズハは完全に飛べなくなる前に自分の村に帰ることを決意した。ロウにも帰ることを伝え、帰る前日、またふたりで砂浜に行った。すると、砂浜に古代の石碑があるのを見つけた。その石碑には、2人の体験と似たような変身の伝説が刻まれていた。それによると、「選ばれし者がはねを持つことで、自然との真のつながりを理解し、人間と自然の調和をもたらす力を得る」というものであった。あまり言葉の意味が理解できず、疑問を持ったまま、ユズハは自分の村へと戻った。

ユズハは村に戻った後、全く飛べなくなってしまった。ユズハの頭の中で石碑の言葉がずっと引っかかっていた。

「もしかしたら島の農家たちよりも早く2人が気温上昇に気がついたのは2人が蝶の力を持っていたかもしれない。」

と思い、もう一度蝶の力をもらえれば、村の役に立てるかもしれない、という期待を胸に神社に行った。今度はずっと力が続くように願った。翌日、ユズハはまた飛べるようになっていた。

「神社に伝わる伝説どおり力をもらった。それで私は蝶のはねをもらって自由に飛べるようになったし、気候変動も分かるようになった。」

と村人たちに伝えた。村の人たちはすぐにユズハが言ったことを信じてくれた。ユズハが蝶の力を得たことで天気の状態などが分かるようになり、農作業がしやすくなった。村は以前よりも自然との調和が取れ、豊かで美しい場所となっていった。ユズハはその力を使い、村の人たちと共に自然を守る活動を始めた。

彼女が変身することで、見た目だけでなく心の中の変化もあった。ユズハは自分のやりたいことを見つけ、人生に対する新たな意味を見出すことができた。そして、ユズハは正しい情報を早く手に入れることの大切さを知った。

それからユズハは自分の村だけでなく、他の村などに渡り、上手く作物が育たない状態から、天候に合わせた調和をはかり、改善をしていくようになった。ユズハが得たはねの向こうには、無限の可能性と美しい未来が広がっていた。

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