瑠璃色の鯉
汐
恋と蜻蛉玉
縁結びのご利益がいただけるといわれるこの神社。珍しくそれは龍神だった。
伝えられる伝説の、姿は桜襲の細長。単は紅色、袿は萌黄のグラデーション。それとは真逆の瑠璃色の扇で唇隠している。金魚は美しい水の中で泳いで方向転換。
ころんと転がるとんぼ玉。暗い瑠璃色の玉で中には金魚が閉じ込められているようだ。珍しく赤い金魚ではなく、朱文金という種類の金魚である。白い体に山吹色の斑点、そして墨をぽたぽた散らしたように小さな模様が体中に広がっていた。尾は二股に分かれ、身体の半分近くの長さを持ちしなやかにひらめかせている。鮮やかな和金とは異なり、不思議な魅力と黒い背景の似合う金魚であるが、仄暗い瑠璃色と合わせると、ぐっとその白さや山吹が引き立てられ、より鮮やかに演出されていた。その黒い瞳は黒みがかった瑠璃色を写し、瑠璃色のとんぼ玉は魚眼レンズのように朱文金の片目を大きく現し出す。それをイヤリングとして左耳にかけた少女は艶のある黒髪を下ろしていた。重く痛い左耳に自然と頭が左下に傾いていく。それを愛嬌と捉えた隣の席の男子学生は、その幼さに恋をした。かわいい、好きだ、仕草が幼い。赤い実とは正反対の瑠璃色のとんぼ玉は女三宮のように幼さでもって引き寄せてしまう。そして、二人きりの教室、ひぐらしの聞こえる中で彼が少女の艶やかな黒髪を耳にかける。そうして顕になったとんぼ玉は、この夕焼けに染まる空色で満たし恋心を弄んで男の胸を押し返した。にこりと笑ったのは少女かとんぼ玉か。恋色と夕焼けを交ぜたとんぼ玉は、薄蘇芳で満たされ恋心を掴み取って呑み込んだ。彼の恋心、少女への募る思いを持ってして、恋は鯉となり龍へと昇って行く。それを見た彼は唖然としながらもそんな魅惑を持った少女に惹かれ、少女もまた、薄蘇芳の色に惹かれて共になった。金魚はひらめき尾はするりと捕まえようとした手を抜けてしまう。あの金魚は、朱金文に似た紅輝黒龍という鯉だった。龍となり昇って行きたいと願う鯉に恋した少女は仄暗い瑠璃色を用意し、金魚としてその恋を閉じ込めることにした。本来野生の鯉は、持ち歩くには不便である。そのため人間に染み付いた金魚として飼っていることにしたのである。またとんぼ玉としては金魚の方がメジャーである。とんぼ玉に似合う金魚として恋を知り、みなに美しいと囁かれ、人肌に触れ続けた金魚もとい恋を知った鯉はとんぼ玉の硝子を叩き割って昇っていった。解放された少女の恋心は楽しみ引き込み巫女として、恋を引き寄せ縁結び。とんぼ玉を編む過程でも少女の恋は熟成されていった。彼はそんな彼女の過去にも恋をして結果生まれた薄蘇芳は、桜襲によく合った。龍はしとしと雨を落として今日も龍らしさを残して、鯉を潤わせ恋のきっかけを創るのである。とんぼ玉を作るように。
瑠璃色の鯉 汐 @usiosioai
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