第23話 エルフ
「俺は……どうしたらいいんだ」
「何かあったのですか?」
「奴隷を売ろうか迷ってるんだ。」
「奴隷……ですか」
アデルは何かを考え始めたように見えた。
(この反応は、何か知っているのか?エルフといえば、反社(反社会的勢力)……ということは)
「エルフは、奴隷売買もやってるのか?」
アデルは、ピクッと反応すると、こっちに振り向いた。
「私達を、何だと思ってるんですか」
「悪の組織だろう?」
「……っ!人間というのは、どこまでも……」
「俺のことだって、拉致したじゃないか」
「あれは、あなたが致命傷を負っていたから……。それは、やましい気持ちは……少しはありましたけど……」
「少し?」
俺がそういうと、アデルは興奮した様子で言った。
「ええ、沢山ありましたよ!やましい気持ちが、沢山!それが何か悪いですかっ!?」
「……」
仮面をつけてなければ、唾が飛んできそうな勢いだった。
(開き直りっぷりがすげー……。悪いに決まってるだろ……)
「でもエルフが全員そうなわけではないです……多分……」
「……」
(全員拉致とか平気でしそうな感じってことか)
「でもエルフだって、ストレスが溜まっているんです。ずっと仮面をつけて生活して、正体を隠さないといけないなんて!」
「正体を隠さないといけないっていうのが、そもそも悪いことしてるからだろ?自業自得じゃないか?」
「自業自得だなんて、あんまりです……。前世で悪いことをしたのかもしれませんけど、私だって、こんな風に生まれたくはなかった。そうしたら、あなたにだって嫌われずに済んだのに」
そういってアデルは俯(うつむ)いてしまった。
「嫌ってはいないが……」
「え……?」
アデルが顔を上げる。
「正直、ここでの生活も悪くはないんだよね。凶暴な奴隷がいたりとか、治安が悪かったり、不便だったりするけど」
「その奴隷は、凶暴なのですか?」
「……命の危険を感じるよ。仮面をつけているからなんとなくしかわからないけど、たまに凄く冷たい目で俺を見てくるんだ。」
「エルフには、奴隷制度がないのでわかりませんね。エルフ狩りで人間に奴隷にされることはありますが……」
「犯罪奴隷みたいなものか?」
「……人間にとって、エルフは犯罪者も同然なんです」
「……」
(犯罪者だろう……)と俺は思ったが、口には出さなかった。
「……ところで、どうしてこの森に来たのですか?」
「ああ、そういえば。世界樹の実を取りに来たんだ」
「それなら、一緒に採りに行きましょう。丁度私の家があるところですから。」
「それなんだが、今ちょっと奴隷と喧嘩していて、ここを動けないんだ」
「それは困りましたね……帰ってきてから一緒に行きますか?」
「エルフと一緒にいると疑われるよ」
「そう……ですよね。では私が持ってきましょうか?」
「いいのか!?助かるよ。気分転換のつもりでクエスト受けたけど、変な空気になっちゃってもう帰ろうかと思ってたんだ」
「ええ、それならばすぐに」
アデルがそういうと、突風が吹いた。
「うわっ!」
俺は慌てて顔を腕で防いだ。あまり時間が経たずに風がやんだ。しかし……
「アデル……?」
アデルの姿が見えない。風で飛ばされてしまったのだろうか?
「アデル!返事をしてくれ!」
声をかけながら辺りを探したが、アデルは消えてしまったようだった。
美醜逆転異世界に転移したおっさんは気付かない 仙道 @sendoakira
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