第2話・復讐ざまぁをしてみたが……虚しい

 オレは、オレを追放したパーティーのクソ勇者に〝復讐ざまぁ〟をするために、新魔王の道を歩みはじめた。


 執事魔物の力を借りて、魔物たちを集めて魔王軍を新設して。

 数年かかって、この世界の侵攻開始直前までこぎつけた。


 オレは世界侵攻を開始する前の勢いづけで、オレを追放したパーティーのメンバーに〝復讐ざまぁ〟するために向かった。

 魔物の少数部隊を率いて、馬くらいの大きさのドラゴンに乗って。

 最初に向かったのはオレに追放通達をしたリーダー勇者の家がある村だった。


 ドラゴンに乗って進む、魔王オレと並んで乗竜する執事魔物が言った。

「それにしても、新魔王さまも風格が出てきて、立派な角も生えましたね」

 オレの頭には魔王象徴の角が生えた。

「毎日、ざまぁするコトだけを考えていたからな……その一念が魔王の角を生えさせたんだろう」


 執事魔物は、オレの腰に吊るしてある。加工して日本刀のような柄が付いた黒い木刀を見ていった。

「まさか、初期装備の木の棒が〝魔木〟だったとは、柄付きの木刀に加工した、その黒い木で人間を殴れば死にます」

「そうか……これは魔木だったのか」


  ◇◇◇◇◇◇


 オレの魔物小部隊は、今は引退して田舎で、悠々自適なスローライフの農作業をしている元勇者リーダーの家にやって来た。


 オレを数年前に追放した勇者リーダーは、畑作業をしていた手を休めオレの方を見た。

 すっかり、村人化している元勇者リーダーにオレは、皮肉たっぷりに言ってやった。

「久しぶりだな……オレの顔を覚えているか、頭に角は生えたが」


 オレを追放したリーダーは、タオルで顔の汗を拭きながら言った言葉はオレにとって意外な言葉だった。


「誰だ? おまえ?」

 覚えていないのか? オレは、パーティーから追放された日のコトは鮮明に覚えているのに。

「おまえから数年前に、パーティーを追放された男だ!」

「そういえば、そんなコトもあったな……容姿が変わっていたから、わからなかった……で、なんの用だ。今日は勇者になった息子が、報告するために家に帰ってくる日だから忙しいんだ」


 ドラゴンから降りたオレは、この日のために頭の中で考えて用意していた言葉を、オレを追放したリーダーにぶつけてやった。

「オレは、追放したパーティーに復讐で〝ざまぁ〟するために魔王に成り上がった。これから、この世界の侵攻を開始する……どうだ、ざまぁされた気分は」


 オレが鼻高々に、追放したリーダーが土下座して詫びる姿を想像した──だが、引退した元リーダーの口から出た言葉は。

「それが、なにか? 侵攻したければすればいい……オレは忙しいんだ」

「それだけか……おまえは〝ざまぁ〟されたんだぞ! 魔王のオレを畏怖いふしろ! 泣いて追放したコトを後悔しろ! 一生くやんだ気持ちを持って生き続けろ!」


 オレを追放したリーダーは、冷たい目でオレを見た。

「どうして、そんな気持ちにならないといけないんだ……おまえのその歪んだ心が追放した原因だ」

 さらに、リーダーはオレにこう言った。


「はいはい『〝ざまぁ〟されましたよ』……これで満足か。言っておくが、他のパーティーメンバーも家庭を持って平穏に暮らしている者もいるからな……余計な、ざまぁなんてするな」


 それだけ言って、オレに背を向けて畑を耕しはじめた元リーダーの姿にオレの心に、メラメラと邪心が沸き起こる。

「ふざけやがって、オレがこの日が来るのを何年待ち続けたと思っているんだ! ちくしょう!」


 気がつくとオレは魔木の木刀でリーダーの頭を強打していた。畑に倒れても関係なく、何度も何度も。

「ざまぁ、ざまぁ、さまぁ!」

 うつ伏せに倒れて、頭から血を流している。動かないリーダー見て、オレは虚無の心になった。

(オレは、今までなにを……なにをやってきたんだ。いったい、ざまぁしたその後は、どうなる?)

 その時、背後で魔物たちの悲鳴が聞こえた。


 見ると勇者になったコトの報告でもどってきた、リーダーの息子と息子のパーティー仲間たちが魔物を切り裂いていた。

 勇者の息子は、魔物の血が付いた剣の切先をオレに向けて突進してきた。

「父の仇! 死ね魔王!」

 体に鋭い痛み……勇者の剣はオレの背中から胸まで貫き通して、オレは畑に倒れた。

 薄れていく意識の中で、逃げていく魔物たちや勇者パーティーに、惨殺されている魔物たちの姿がオレの目に映る。


 執事魔物が、オレの近くにしゃがんで言った。

「全部、最初から想定されていたんですよ……あなたをパーティーから、追放したメンバーの一人に。魔物寄りの恐ろしく聡明な方がいらっしゃいましてね……あなたが〝ざまぁ〟するコトはわかっていたんですよ」


 執事魔物の話しだと、オレが魔王に成り上がるために洞窟を訪れるコトも、オレがリーダーの所に最初に向かうコトも想定内の行動だったらしい。


 薄れていく意識の中で、執事魔物の話しは続いた。

「あなたが、追放したリーダーを激怒して殺害するのも想定内、あなたは最後の魔王になった……これで魔物たちと、人間たちに平穏な魔王空白時期がしばらく続きます。新たな魔王が現れるまでは……では、わたしも消えますか」

 執事魔物の姿が、背景に溶け込むように消えた。


 オレは、策略で〝逆ざまぁ〟されたと気づいた。

(あぁ、意味のない虚しい〝ざまぁ〟なんてするんじゃなかった……〝ざまぁ〟なんて忘れて、別の自分の人生を歩めば良かった)


 オレの視界は後悔の中で、真っ暗くなった……そして、オレは長い魂の歳月を経て、勇者に斬り殺される底辺の魔物の子供として転生誕生した。


  ~おわり~

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真『ざまぁ』……魔王になって『復讐ざまぁ』したはずが、返り討ちされて逆ざまぁ 楠本恵士 @67853-_-

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