番外編

ハートのA&赤のJOKER

 オレは“白うさぎ”。

 別の世界から、不思議の国と呼ばれるこの世界で生き、この国のハートの城で働くだ。

 だがオレには、もう1つ別の役目が存在するのは他の皆には内緒である。

 オレは、こことは違う別の世界で“アリス”と成り得る人物を見定めて、この世界へと案内することだったりする。

 そして他の奴らと違い、オレは2枚のカードをこの体に宿している、なんて…誰が信じてくれるだろう?


 そうやってこの世界にやって来た奴は“アリス”の物語みちを辿り、もとの在るべき世界へと帰って行く。

 それがこの世界での決まりだ。オレ以外の役のある奴が“アリス”を導いて帰り道を示す。

 それでも、たまに迷ったままの奴がいる。この世界で迷った奴はもう“アリス”じゃない。

 迷ってしまったら、“アリス”ではいられなくなるんだ。

 この世界で今生きている奴は全員、“アリス”としてオレが連れて来て、迷った奴だ。

 “役”としての存在が、この世界に生きる最低の条件でもあるのだから。

 さらに、“役”でも迷った奴は消える。何処に行くかなんて、オレは知らない。

 オレはただの“案内人”で“白うさぎ”。

 もう、最初からこの世界にいるのはオレだけになってしまった…最初の奴はもうとっくに消えている。


 ーーーなあ、リデル…お前はいつまでオレの傍にいてくれるんだ?


 オレを“白うさぎ”と呼ばず、“ハクヤ”と呼んで…お前の膝の上へと誘う日常。

 お前は何でそんなに特殊なんだ?普通、“役”になったらこの世界の奴になる。

 別の在るべき世界の記憶もすべて忘れる。その“役”になっちまうはずなのに…何でお前は変わらないんだ?

 そして何故か…オレが“アリス”を連れて来ない間、お前はまるで“アリス”だ。

 “ハートの女王”をまるでみせない。それに、もとの在るべき世界の記憶も持ったままなんてあり得ないはずなのに・・・・・


「ハクヤー!どこにいるの?」


 いつものように、オレをリデルが呼んでいる。


「早く来ないとあなたの首をはねるわよ?」


 “首をはねる”は“ハートの女王”の言葉セリフだ。だが、言い方はリデルのまま…変わらない。

 お前は“ハートの女王”になっても・・・・・


「見つけた、ハクヤ。いるんなら早く来てよ。ハートの女王がうさぎを探してるなんて変でしょ?」


 “ハートの女王”がオレを含め、他の奴をかまうのも変なんだがな。

 じっとオレを見つめるリデル。分かってる。人型よりもうさぎの姿の方が好きなんだろう?

 オレがパッとうさぎの姿に戻れば、お前は嬉しそうに笑って、オレを抱き上げる。


「ところでリデル、ハートの女王の執務は終わったんですか?」


「えーまたあとでするから!」


「ダメです。終わらせて下さい」


「ハクヤのいじわるー!!」


 この時間が、オレはずっとずっと続いてほしいと願っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

In heart 姫野光希 @HimenoKouki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ