第7話 最初の被害

急いで扉に戻る。ノブを捻り扉を押すが何かに押さえられているのか開かない。


「グリーン!」


すぐにグリーンも加わり、開かない扉を肩で押す。するとゆっくりと何かを引きる様に扉が開いた。


「グレー! ブルー! どこですか」


戻った部屋にブルーの持つ蝋燭の灯りは無く真っ暗闇だった。


「あぁ。はぁ」


近くからグレーの息遣いが聞こえる。部屋の奥を照らすと壁際に横たわるグレーの姿が見えた。


「グレー。大丈夫ですか」


「頭が、でも多分大丈夫」


「ブルーは?」


「わからない。急に蝋燭の火が消えたと思ったら何かに突き飛ばされて」


蝋燭を近づけると、グレーはこめかみの辺りから血を流していた。


「おい。ゴールド。灯りを持ってこい」


先ほどこじ開けた扉の方からグリーンの声が聞こえた。


「グレーはこのまま座っていて下さい」


グリーンの声の方へ近づき蝋燭で周囲を確認した。屈んだ姿勢のグリーンの手元には青い綺麗な衣装が見える。衣装を辿る様に照らすと横たわるブルーの顔が見えた。

扉にもたれかかる様に押し付けられたブルーの顔からは、生気が失われていた。


「ブルー! しっかりして下さい」


燭台をグリーンに渡し、ブルーの頬を触るとヌルッとした液体が手に触れる。


「グリーン。灯りを近づけて下さい」


両手で頬から伝う様に段々と手を滑らせていく。その手が首元に触れた時、剥がれた皮膚と生温かい液体の感触がした。

グリーンが近づけた灯りでパックリと切れた首がぼんやりと映し出された。


「え、おい。どうなっているんだ。おい、何だよこれ」


グリーンの持つ燭台が耳元をかすめ、炎がふらふらと周囲を揺れている。


「グリーン。落ち着いてください」


グリーンの手元の燭台を掴むと、グリーンは叫びながら廊下へ繋がる扉へ走り出した。

錯乱している。危険だと判断し、咄嗟に燭台を置き後を追う。


「うわぁーー! あぁぁ!」


グリーンは叫びながら顔の周りの虫を払うように手を振り回し、部屋から飛び出した。

そしてそのまま真っ直ぐ進み、1階が見える手すりに激突した。

木製の手すりは、その衝撃で大きな音を立てて割れ、一部が空中にぶらりとせり出してしまった。その隙間から階下に吸い込まれそうになるグリーンの左腕をかろうじて掴む。


「グリーン!」


「うわぁぁ!」


我に返ったグリーンが私の手に掴まろうとし、更に叫び声をあげた。

その理由はすぐにわかった。明るいところに出てきてようやく気が付いたが、腕も服も血塗ちまみれだった。

そしてその血のせいでグリーンを掴む手が滑っていた。グリーンも手すりに片方の足が引っかかっているものの、掴むところが無くよじ登れないでいる。何よりまだ混乱していて、このままでは巻き込まれて落ちる可能性もあった。

この館の2階は必要以上に高さがある。落ちたらただでは済まないだろう。


「おい、踏ん張れ!」


階段側からブラウンの声がする。騒ぎを聞いて駆けつけたようだ。暗闇の中を手すり伝いに走ってくる。グリーンが手から滑り落ちる丁度そのタイミングで、ブラウンの腕がグリーンを掴んだ。

グンと体ごと一気に引き上げ、その勢いでグリーンは私の上に諸共倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ。ブラウン。助かりました」


「おい、何があったんだ。ゴールド、怪我をしてるのか」


「私じゃない。ブルーが」


わかってはいたが、その先の言葉は出てこなかった。

グリーンが再び震え出し、駆け出そうとする。


「おい、落ち着け!」


暴れるグリーンをブラウンと共に押さえる。そこにシルバーとホワイトが駆けつけて来た。


「2人とも、こいつを下まで連れてってくれ」


人が集まりグリーンは多少落ち着いたようだった。シルバーとホワイトは2人で抱えるようにグリーンを階段の方へ連れて行く。




「ブルーは中か」


「はい、何者かに切りつけられたようです」


そこまで話してゾッとした。グレーを室内に置いて来ている。騒ぎを聞いているとは思うが、もし切りつけた奴が中にいるならばグレーも危険だ。


「グレーも中で怪我をしています。行きましょう」


ブラウンと灯りのない部屋の中へ踏み込む。10mほど先に横たわるブルーの近くに、置いたままの燭台の炎がぼんやりと見えていた。炎を目指して慎重に、だが急いで進んだ。


「グレー! いるか」


ブラウンが声をかけるが反応はない。燭台に辿り着き、それを拾い上げた。


「こちらです」


ほんの数歩だがゆっくりと進んだ。

グレーはそこに倒れたままだった。顔を覗き込むと気を失っているように見える。


「先にグレーを運びましょう」


ブラウンが燭台を持ちながら腋を抱え、私が足を持つ形でグレーを部屋から運び出した。暗い廊下に置いておくわけにはいかず、そのまま階段を降りて暖炉の前まで連れて行くことにした。


暖炉の前では一同が怯えるグリーンを見守っていた。運ばれて来たグレーを見て、皆の顔が一層不安に包まれる。


「大丈夫です。脈も呼吸も正常ですので、恐らく気を失っているだけだと思います」


ソファーに寝かせたグレーにホワイトが駆け寄ってくれた。


「きゃーー! あなた何よその血は!」


私を見たパープルが急に取り乱す。

ブラウンが説明しようとしたが遮った。この状態のまま話す気にならなかった。自分が付いていながら、これだけの被害を出してしまった事に対する自己嫌悪かもしれない。


「まずはブルーを連れて来ましょう。話はそれからです」


落ち着いた声でブラウンに声をかけ、金切り声をあげるパープルを気に留めずブルーの元へ向かった。

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異世界転移が思ってたのと違うし怖過ぎた 毛布 巻男 @mofu_love

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