俺ッ主人公!

夜九笑雨

第1話 自分は誰か……モブだ。


俺は一体誰だろう?


普段からそんな思考を持った自分がいる。


名前は裁古俊介。


高校一年生、十五歳、男、ついでにモブ。


学力も運動神経も顔も平均。


どちらかと言えば下から数えたほうが早いかもしれない。


俺はどこか、自分が俗世と隔絶したような、雲の上に浮かんでいるような、幽体離脱しているかのような感覚を持っている。


隠すことなく言えば、自分は社会不適合者に当たるのだろう。


人間関係もまったく発展することなく、普段から一人でいる。


コミュニケーション能力が低いというわけではないが、人と話すことがおっくうになることがある。


将来自分が社会人として生活していけるのか、一人で稼いで生活できるのか、時々不安になる。


俺は友達がいない。


でも話す相手はいる。


でもやはり友達はいない。


家族はいる。


普通の家庭と何ら変わらない四人家族だ。


父、母、俺、妹。


家族中は普通に良いし、子供が苦学生にはならない程度には親の稼ぎがある。


そんな俺には唯一、自分の個性と呼べるものがある。


それが趣味の読書だ。


小さい頃から読んできた本の数はざっと五千冊。


ジャンルを問わず、純文学も地理歴史も神話もラノベも読む。


いわゆる雑食系読書家である。


本は良いものだ。


読むだけで様々な知識を得られるうえ、自分の知らない体験を主人公の視点に合わせることで追体験した気分になる。


現実的なものはこんな人生を送る人間もいるのかと疑問になるし、空想上の分野はこんな面白い発想があるのかと驚く。


時には自分もこんな経験があれば面白いのにと夢を見たり、自分にもこんなアイデアと創造力があれば小説家として出世できるのにと。


小説家の思考を読むのも面白い。


この作者はどんな経緯体験によってこんな発想と文章を書いたのかと想像して楽しむ。


先の展開を予想して次の巻を読むのが待ちどうしくなったり。


だから今日も家のリビングでソファに座り本を読む。


隣には俺の肩に頭を乗せてスマホを弄る妹の真凛がいる。


すごく読みにくいのだが……。


「なあ、頭どかしてくれない?」


俺が聞くと真凛は頭をあげることなくこう言い返してくる。


「いや」


「なんでだよ。本が読みにくいからどいて欲しいんだけど」


「逆に聞くけど妹に甘えられて嬉しくない兄がいるの?」


残念ながら俺はシスコンじゃない。


そんな強い属性を俺は持たない。


もし妹に「あれ買ってきてお兄ちゃん」とでも言われようものなら渡されたお金で本を買ってしまうだろう。


俺はそう言う奴だ。


「別に嬉しくない。むしろウザい。どけ」


「ねえアイス食べたい。取ってきて」


「自分で取って来いよ」


「あっ、お兄ちゃんにはオンブラン買ってきてるから食べていいよ」


俺の話をまったく聞く気がない真凛の言うことを聞く理由はない。


読書を続けることにする。


「ねえ~取ってきてよ~」


「……」


「お兄ちゃん、取ってきて♡」


「……」


「取って来いって言ってるだろうがッ」


顔面をがっしりと掴かみギリギリと閉めながら脅してきた。


痛いんだけど……。


はあ……取ってくるか。


俺はソファから立ち上がり冷蔵庫に向かった。


冷凍庫から妹の分と、ついでに自分の分のアイスを取る。


ソファに戻れば真凛が俺にアイスを受け取り俺の膝の上に頭を乗せ寝転がる。


「おっも」


「ぶっ殺すぞ?」


俺は黙ってアイスを食べることにした。


アイスを袋から取り出し、食べながらもう片方の手で本を捲る。


この本のタイトルは『頭が悪い人の考え方』。


うむ。


普通ならポジティブな頭が良い人の考え方となりそうなものだがその逆を行ってるのが面白い。


ただただ頭の悪い人の考え方が綴られている。


これバカ量産本か、読者の羞恥心を煽りたいだけの本なのだろうか?


この本を読んで反面教師として認識する人間がどれぐらいいるだろう。


俺は自分の頭が悪くなっていくのを自覚しながらページをめくり続ける。


読書をしながらアイスを食べるのもなかなかいいものだが……真凛が膝の上でごろごろ頭を転がすのが気になる。


普通にくすぐったくて重いんだが。


それを言ったら罵倒されるだろうからもう黙っておくが、ウザいな。


溶けたアイスの汁が俺のズボンに付かないか心配だ。


「お兄ちゃん、どうかしたの?」


俺の視線に気づいた真凛が不思議そうに聞いてくる。


「いや、今日の真凛も可愛いなって」


「いや~ん♡ 照れるじゃん!」


お世辞に決まってんだろうが……。


客観的に見て妹の真凛は整った顔立ちをしていると思う。


嘸かしクラスでは人気者なんだろう。


俺もブサイクではないが、どうして双子なのにここまで差がついたか。


強く、賢く、美しい。


クラスで真凛のことをそう噂している男子もいるが、俺は「えっ、この脳内ヤンキーのブラコン女が?」と言いたくなるがな。


本を読むこと数十分。


読了し、本を机に置きスマホを取る。


スマホには女性担任の吉川海先生からメッセージが来ていた。


『至急、真凛と共に学校へ来てください。異分者施設から脱獄した男が二人います。その二人の捕縛を依頼したいです』


異分者施設とは異世界からやって来た者たちの中で、犯罪行為を働く者たちを収容する施設だ。


男の名前はクリューとノブ。


どちらも成人済みの大男みたいだ。


写真も一緒に送られてきたからわかる。


さて、なんて返事をしようか……。


ポチポチとタップしながら送信ボタンを最後に押す。


『寝てるから無理です』


膝の上で真凛が──。


俺は面倒だからそう送った。


するとすぐに返事が来る。


『寝てるのに君は返事ができたのかね? はははは! すごい芸じゃないか……いいからさっさと来い』


ですよねー。


俺は膝の上の真凛を揺すって起こした。


「うーん……なに?」


「吉川先生が捕まえて欲しい異分者がいるんだと」


「えー、自分で捕まえればいいのに……」


「俺もそう思うけど、吉川先生は真凛なら大丈夫と思ったんじゃないか?」


「はあ……わかったよ。お兄ちゃんの点数稼ぎのためだしね」


それは好感度なのか、内申点のことなのか?


どっちもか。


俺と真凛が通っている学校は異現交流学園。


現代の学園が、異世界の学園と共に交流し、切磋琢磨する学園だ。


通常の勉学に魔法を勉強し、能力者の育成に励む。


実技では専攻分野で剣術科、体術科、魔法科に分かれる。


俺も真凛も剣術科を専攻している。


理由は担当の女性教員が綺麗だったから。


真凛は俺が変な気起こさないように監視するため。


剣術まったく関係ないな。


すぐに自室へ行き外出の用意をする。


私服から制服に着替え、異現交流学園の生徒には許可されてるため帯剣する。


外に出たら真凛に襟首掴まれた。


「行くよ」


「あいよ~」


そのまま真凛は魔法で空を飛び学園へ向かう。


俺は引っ張られるように空を移動しながら脱獄犯の特徴を整理する。


クリューは特に目立った能力はない。


ただし筋力、腕力がすごい。


一方ノブは魔法に秀でて中級レベルの魔法が使えるようだ。


どちらもこの目で見るまで実力はわからないが、たぶん真凛なら大丈夫だろう。


数十キロあった距離を超高速で移動した結果、ものの数分で学園に着く。


真凛は開いていた一年生の職員室の窓から俺ごと侵入する。


その行動にぎょとした教員たちの顔が面白い。


俺はグッジョブと親指をあげて見せるが、教員たちの俺を見る目は冷たかった。


そりょそうだろう。


俺は学園で真凛の腰巾着と思われている劣等生だ。


その認識は全く間違っていない。


この学園の生徒は最低二人以上のペアを組んで、任務にあたる。


そしてペアの功績はグループ全体の功績として評価される仕組みになっている。


だから実力がない俺が真凛と組むことで好成績を収めていることから、周りの生徒からも嫌われている。


嫌われ者のモブ。


それが俺だ。

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