Last.堂場カケルの願い

 日中の猛暑の名残なのか、最近の夏は夜も暑いな。輪郭を沿って顎から滴り落ちる血を拭いながら、堂場カケルはそんなことを考えていた。普段運動しない堂場だったが、今日に限り、軽い足取りで緩やかな坂道を進んでいく。

 堂場は自分でも分からない使命感……義務感……に突き動かされ、自宅アパート裏にある小山を登っていた。目的地は、小山の中腹にある小さな公園だ。そこに何があるのか分からない。だが、堂場はそこに向かって歩き続けた。

 太陽が沈み、辺りが薄暗くなった頃、ようやく公園に到着した。既に辺りは暗く、公園の灯りだけがぼんやりと公園やその周辺を照らしている。

 堂場は公園のベンチに腰を下ろし、自分が住んでいる町を見る。

 暗闇の中にぽつぽつと住宅の灯りがあり、その夜景は幻想的でとても綺麗だった。自分の住む町の夜景がこんなに綺麗だという事も今の今まで知らなかった。


「はぁ、俺の人生って……はぁ……」


 堂場は小さくため息をついた。変わり映えしない毎日を過ごしている自分が間違っていたとは思っていない。しかし、いざ、自分の命の終わりが見えた時、満足した毎日だったかと考えると……首を縦に振ることが出来ない。

 一番の心残りは両親だった。

 子供の頃から迷惑を掛け続けてしまい、これからやっと孝行出来るはずだった矢先の……。


「あ」


 堂場は夜空を見上げ、声を上げた。一筋の綺麗な流れ星が見えたからだ。

 堂場は願った。もう少しだけ、生きたいと……。だが、その願いは届かず、堂場はベンチでゆっくりと眠りに就いた。


♢♦♢♦♢♦♢♦


 流れ星は堂場が眠りに就いた公園に落ちた。ドンッという小さな衝撃音と共に砂煙が舞った。その中からスライムのような何かが姿を現す。

 スライム状の何かはキョロキョロと何かを探すようにした後、ベンチに座る堂場カケルを見た。

 スライムはゆっくりとベンチに近づき、堂場の生命機能が停止していることを確認してから、堂場を体内に取り込み始めた。

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堂場カケルの日常 煤元良蔵 @arakimoto

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