第8話 紐扼徊欺《じゅうやくかいぎ》

 キヨコ達は目標を定めると早速行動を開始した。

 キヨコは暗灰色の装備で全身を固め、マーちゃんは姿を消してその後に続いた。キヨコは姿を消せることについてうらやましく思った。


 目的の物が地下にあると当たりをつけた後で、彼女達は地下に続く通路を探すためにまずは左側の通路に入った。こちらの可能性が高いというマーちゃんの助言に従ったのだ。


 キヨコは出来るだけ無音で相手を倒すために、マーちゃんに頼んで細い鋼製ワイヤーを新たに用意してもらった。手持ちの武器を増やしたのである。


「突き当たりには何も無さそうだな。隠し通路の類いも無いようだ。そうなるとあとはこの扉の向こうだけか。奥に下り階段がありそうだぞ」


 マーちゃんの念話に導かれつつ、左の通路にある唯一の扉を開けて静かに中に入った。扉を閉める音もほとんどしない。


「あの下り階段だ。思ったよりも広いな。幅3メートル、高さもそれくらいか。設置物も分解出来るか、これくらいの大きさだと考えて良いようだ」


 部屋の奥にはマーちゃんの言うような下り階段が存在した。

 キヨコは小さくうなずくと足音をたてずに階段を降り始めた。


「また木製の扉だわ。分厚くて中の音は拾えないわね。ひょっとすると昨日の夜みたいに中で動いてないだけかもしれないけど」


 階段を降りた先にも木製の扉があった。分厚く金属で補強されたそれは内部の音をほとんど通さないようだ。

 キヨコは非常に小さな声で扉についてマーちゃんに告げた。余分な呼吸音がほとんどしない話し方だった。


「扉の向こうに2人いる。常にツーマンセルとはな。彼らは徹底しているようだ。何らかの訓練を受けた連中なのだろう。同僚が死んでも愚痴も騒ぎも無い。私語もないとは」


 彼らはそれなりに厳しい規律の中で生きているようだった。国外に出ると言っていたことから、組織の規模は大きいかもしれないとキヨコは思った。


「マーちゃん、扉を開けてもらっても良いかな。相手の姿が見えれば、扉は全部開けなくても良いわ」


 扉の向こう側にこれから仕掛けることをキヨコはマーちゃんに伝えた。

 キヨコの声に応えて、昨晩と同じく誰も触れていない扉はゆっくりと静かに半分ほど開いた。

 室内の男2人は入り口から離れた場所で、両手を自由にした状態で左右に別れて立っていた。

 キヨコから見て左側の男がキヨコの視界に入った。右の男は扉の陰になっていた。


 男が視界に入った瞬間、キヨコの手からワイヤーが伸びてその首に絡み付いた。


「フィキュゥ!」


 ワイヤーに襲われた男は急激に首がすぼまった為に、空気を絞り出すような声を出して倒れた。


「ヒマワリ流護身術 紐扼徊欺じゅうやくかいぎ


 誰にも聞こえないようなつぶやきが流れるや、もうひとりの男の額には鉛筆のような杭が突き刺さった。


「ひまわり流護身術 抜き打ちぬきうち剣叉けんさ


 この声も小さなつぶやきだった。


「相変わらず見事な業前わざまえだ。死体はこちらで回収しよう。

この部屋にあるのはコンソールと……棺桶なのか? 中に入っているのは死体だ。使用前は生きていたとすると魂を使用する技術か」


 マーちゃんは室内を見回すとそこにある機器類について素早く把握した。

 ほぼ間隔を置かずに『黒クモさん』が何体も出てくると、死体と謎の装置の回収に入った。さらには扉を閉めて白い泡のような物質を隙間に充填じゅうてんすると、扉が開かないように固定してしまったようだ。


「これでしばらく時間が稼げるだろう。目的は達した。キヨコはセーフハウスに戻って、装置について調べがつくまで適当に過ごしてくれ。昼になったら食事もだすぞ」


 彼女達は今度は扉を固定した地下室に籠城することになった。キヨコとしては快適な籠城だった。






 その日の昼過ぎのこと、凄まじい破砕音がして地下室の扉が室内に向かって倒れた。


「これはどういうことなのだ? あの2人はどうした。装置はどこへいった!?」


 地下室の中を見たハンポロ・メクレタディアは愕然がくぜんとした。

 地下室の扉が開かないことに気がついた彼らはこれを何とか破壊して室内に入ることは出来た。ここまで物置にあった破城槌はじょうついかついできたのだ。

 室内にはここにいるはずの2人のメンバーがいなかった。さらには組織から貸与された召喚装置が影も形も無くなっていた。


「いかん。何者か知らんが、そいつは我々のことを知ったのかもしれん。俺の首だけではどうにもならんかもな……」


 神出鬼没の相手に対して、ハンポロは絶望のうめき声をあげるしかなかった。



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キヨコとマーちゃん──異世界に拉致されたら変なトカゲと出会ってスニーキングで旅することになった お前の水夫 @omaenosuihu

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