第7話 免疫強化と死体回収
「キヨコ、私がうっかりしていた。私も久しぶりなのだ。以前に繋がっていた世界とは既に接続が切れたが、二百万年ぐらい経過していてな。空間系の能力とつながるのはもっと久しいのだ。すっかり免疫のことを忘れてしまっていた」
マーちゃんは早口でキヨコにそう伝えた。
キヨコ的にはマーちゃんのうっかりは
「夜はやはり寝た方が良い。この世界の太陽が有害だった場合には別の方法を取る。拳に血がついているし、それは風呂で落としてほしい。後で免疫強化薬を渡すので、今日はそれを飲んで就寝してくれ」
キヨコにそう告げたマーちゃんは後ろを向くと何かを招き寄せる仕種をした。
それに答えて現れたのは10体の黒いクモのような存在だった。
「彼らは『黒クモさん』だ。言うなればロボットだな。建物内にはこちらの世界の人間が存在していないようだ。今のうちに全ての死体を回収してしまおうと思う」
「それは
キヨコはマーちゃんの意図をはかりかねたので聞いたらしい。
「一番の目的は連中の生物学的な調査だ。細菌の確認も必要だ。見た目が人間と同じでも祖先が同じだとは限らん。環境に適応するにあたって特別な組織や仕組みを有する場合もある」
マーちゃんの答えを聞いて、キヨコはなるほどと思った。このトカゲさんは思いのほか用心深くそして頼りになると彼女は感じた。
体高3メートル以上はありそうな『黒クモさん』たちはそれからすぐにセーフハウスから出かけていった。
彼らはハエトリグモように見えたが、腹部は球形で砲塔のような物が付いており、脚部もN字型関節で自然の造形とは異なるようだった。
キヨコはその後、言われた通りに風呂で身体を洗い、歯を磨いてから銀色の錠剤を呑んで寝てしまった。久しぶりの緊張の為にキヨコの身体は疲れを感じていたのかもしれない。
領主ボラギノーレ・ジノアートが殺された翌日のこと、ハンポロ・メクレタディアはさらに頭の痛くなる事態に直面した。
魔方陣の部屋から、16人分の死体が無くなっていた。
さらには見張りとして残した彼の部下2名が行方不明になってしまった。
そして彼には何がどのようにそれを行ったのかサッパリ分からなかった。
「召喚によって呼び出された者は人間ではないかもしれん。やりたくはないが本部には全てを報告する必要がある。ムーニー、それからパンパアース。お前たちはこの国を出て本部に報告を頼む。書簡ではダメだ」
ハンポロは部下2人を報告に送り出すことにした。
「ライフリー、アテント。お前達の方は終わったのか?」
「書簡は見つけて外で燃やしました。もう屋敷内には無いものと思われます」
ハンポロの問いにはライフリーが答えた。
「ここから撤収するにしても、もっと情報が無ければ言い訳も出来ん。相手がどういう存在かだけでも確認せねばならん。この建物内にまだいるかもしれん。目に見えない相手である可能性がある。抜かるな」
ハンポロと部下達はその言葉を最後に建物内に散っていった。
「マーちゃん、今のが敵側の人たちということで良いのかしら?」
「死体が無くなって慌てていたようだが、話の内容が分からん。キヨコ、翻訳を頼む」
キヨコ達はハンポロの台詞をすぐ側で聞いていた。
セーフハウスは内部に居たままで移動は出来ないが、他者には見えない入り口から外部の話は聞くことが出来たのだ。もちろん第三者は入り口に触れることも出来ないようだった。
こちらの言語の内容は分かるキヨコはマーちゃんに彼らの会話内容を話して聞かせた。
「彼らがキヨコを誘拐した側なのは間違いないだろうな。
私の調査の方も順調だ。連中は猿人系の人類だった。キヨコと同じだ。問題になりそうな細菌もいない。弱点は同じで、環境もそう違いはないだろう。問題は相手の能力だけだ」
「私ね、思ったんだけど……召喚に使用する装置か何かをもらってきて調べたら何か分からないかしら」
マーちゃんの説明を聞いて安心したキヨコは召喚装置の奪取について提案した。
「キヨコ、それはいい考えだ。世界を移動させる装置は私も興味がある」
魔方陣から伸びるケーブルが地下に繋がっているのではないか、と当たりをつけたキヨコ達は調査の為に移動を開始することにしたのだった。
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