0-5「弁慶の泣き所」

 俺は殴りかかる怪人の拳を刀で弾き、その反動で怪人の首を切りつける。

 この間合いなら頚椎まで刃が届くと思ったのだが、骨を斬った感覚がない。どうやら怪人は拳を弾かれた直後に上体を反らして、俺の斬撃を紙一重で回避したらしい。

 一歩後退した怪人は、再び勢いをつけて右腕を振り上げた。

 ボクシングのストレートに似たフォームで繰り出される拳は、風圧をまといながら俺の顔めがけて一直線に飛んでくる。

 俺はそれを左に回り込むようにかわし、伸び切った怪人の右腕を一刀両断。追撃に右足も切断して、重心を崩したところに蹴りを入れた。

 すると怪人はバランスを崩し、その巨体を地面に叩きつける。

 倒れ伏す怪人の左腕と左足を切断して完全に抵抗力を削ぎ、ようやく俺は怪人の首を切り落とした。

 しかし、怪人は動きを止めない。四肢と首から血を垂れ流しながら、痙攣するように暴れている。

 俺はそんな怪人の上に座って全体重で押さえ込みつつ、その背中に触れている自身の左手に神経を集中させていた。

 目を閉じて呼吸を整えると、怪人の体から発せられる鼓動が漠然と俺の右手に伝わってくる。

 鼓動といっても実際に振動が伝わってくる訳ではなく、あくまで比喩。音波のような物理的な振動ではなく、揺らぐ微弱な電流のような感覚だ。

 その鼓動のような波長は怪人から俺の体に伝播し、そして俺からもまた鼓動が発せられ、怪人の体に伝播する。

 お互いの鼓動は、お互いの体の一部へと収束していった。

 怪人の鼓動は俺の背中、左肩甲骨と背骨の中間へ。俺の鼓動は怪人の腰、腰椎の右側へと。

 俺は目を見開き、怪人の腰椎の右側に刀を深々と突き刺した。

 すると、怪人の体が一切の動きを止め、その末端から粘り気のある赤黒い液体に変わっていく。

 怪人の体が完全に液体に変わった時、刀の切先に目を移すと、小さな赤色の球体が貫かれていた。

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