0-4「呑気な奴」
振り返ると、バイクに乗った少女が手を振りながらこっちに走って来ている。間違いない、紫雲だ。
「やっと来たか…!」
紫雲は俺のすぐ目の前で停車し、鞘に収まった刀のような武器を俺に向かって投げる。
受け取って鞘から抜き放つと、見慣れない漆黒の刀身が露わになった。
俺が普段から使っている対怪人ブレードとよく似ているが、あれより格段に軽い上に、柄には何やらトリガーのようなものが付いている。
「スミくん、ごめん!土屋さんからそれを受け取ってて遅れちゃった」
「これは?」
「一見は百聞に如かず!とりあえず柄に付いてるトリガーを引いてみてよ」
「百聞は一見に如かず、な?」
俺は紫雲に促されるまま、柄のトリガーを引いてみる。
───キィィィィン…!
すると、刀身が甲高いモスキート音を発しながら、高速で振動をし始めた。
モスキート音は次第に聞こえなくなり、最後には柄からモーターの駆動音のような、静かな音だけが鳴っていた。
「それ試作品だって!名前は確か、超音波なんたらかんたらブレードみたいな…あっ!スミくん、後ろ!」
紫雲が俺の後ろに向かって指を差す。俺は紫雲の視線の先を目掛けて、渡された刀を振った。
肉を裂き、骨を断つ感覚が柄から手に伝わる。よく知っている感覚…のはずなのだが、いつもとは何かが違う。
後ろを向くと、怪人は俺のすぐ背後に立っていた…が、様子がおかしい。
…怪人の右手が、消えている。
もしやと思い怪人の足元を見ると、奴の巨大な拳が綺麗な断面をこちらに向けて落ちていた。
俺が怪人に視線を戻すと、奴は血飛沫を上げる右腕をおさえて後ずさりをしながら悶えている。
「切れ味すごっ…!」
「超音波…」
以前、土屋さんに聞いたことがある。
刀身を超音波で振動させることで切る時の摩擦を低減させ、切れ味を底上げする技術があるらしい。
医療用のメスのような小さい刃物にに使われている技術との事だが、土屋さんは「いつか対怪人ブレードにも搭載してみたい」と言っていた。まさか本当に実現してしまうとは…
「試作品の実地試験を兼ねて、実戦で使ってみて欲しいってさ」
「プロトタイプをいきなり実戦投入かよ…」
「んじゃ!倒したら連絡してねー」
そう言って紫雲は、そそくさと撤退してしまった。
紫雲の口調から「俺なら勝てて当然」といった感じの無責任な期待を感じ、苛立ちを覚える。
「倒したら、って…呑気な奴だよな?自分は戦わないくせに」
俺は刀を右下段に構え、怪人の攻撃に備える。
怪人の方はというと、右腕にはすでに新しい右手が生えていて、準備万端といった雰囲気を醸し出している。
「俺は毎回、死ぬ覚悟してるってのにさ」
俺がそう言った直後、怪人は俺に向かって駆け出した。
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