0-3「待ち合わせは大抵上手くいかない」

 殴りかかって来た怪人の拳を、間一髪で身を捻ってかわす。

 左肩をかすめた怪人の腕を左手で捕まえ、ガラ空きになった左脇腹をナイフで滅多刺しにした。

 少しぐらいは怯むだろうという俺の予想は外れ、怪人は咄嗟に俺に掴まれた右腕を振り回し、俺は投げ飛ばされる。

「うおっ!」

 着地時に受け身こそ取ったが、アスファルトの地面ではあまり意味を為さなかった。俺に衝撃と激痛に悶える時間は無く、すぐさま転がって怪人の追撃を回避する。


───ゴンッ!


 起き上がって怪人に向き直ると、奴は拳を地面からいた。

 俺は怪人が体勢を整える前に距離を詰める。奴が迎撃のために放ったストレートをサイドステップでかわし、二発目が来る前に懐に飛び込んだ。

 逆手に握ったナイフを奴の首に横から突き刺し、手前に引き抜いて喉を切り裂く。

 流石に今回の攻撃は効いたらしく、怪人の巨体がたじろぐ。その一瞬を、俺は見逃さなかった。

 俺は奴の胴から腹にかけてを、一心不乱にナイフで突き刺しまくる。最後に頭に回し蹴りを放つと、怪人は力なく地面に倒れ伏す。

 しかし、怪人はすぐに動き出した。

 俺は起き上がろうとする怪人に追撃はせず、咄嗟に距離を取る。

「やっぱ山勘じゃ無理だな…」

 今までの攻撃で出血を伴うほどのダメージを与えたのは首への攻撃だけだ。あれだけ滅多刺しにした胴からも腹からも、出血が見受けられない。何ならさっき切り裂いた喉も、すでに再生して元通りになっている。

 やはり、ナイフでの攻撃は有効打にはなり得ない。

 いつもなら事前に紫雲と合流して装備を整えてから討伐に臨むのだが、今日に限って何やら用事が立て込んでいるらしく、現地集合という事になった。

 が、肝心の紫雲が一向に来ない。

「紫雲、早く来てくれ…!」

 そう、呟いた直後。


───スミくーん!


 聞き覚えのある能天気な声が、背後から聞こえた。

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