菫野

スフィンクスの美しきかうべのやうにして八重の木槿の散るは悲しも


くびすちに百合を咲かせた人たちが吸ひこまれてゆく湖がある


夏野原小鬼がひとり骨くぐる と見る間に星の湧きいづるかな


人間の耳に聞こえぬ夜と昼の呼びかはす声 頬切られゐし


わが明るき右半身をそよがせて川べりをゆく秋を迎えに


ひと房の葡萄をひだりむねに置き見よう見まねの一生ひとよなりしか


掘りおこす緑の手紙うらにはのアーモンドの根に爪をたてつつ


秋冷の火星にありやと問ふひとの踵透けゆく とどめがたきを


謎ひとつ思ひいづるにたましひの震ふ音ふかく野に響きゆく


火の首をいま抱き来ぬなれもまた画家のビュランゆれしものかは

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菫野 @ayagonmail

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