第4話:聖剣グラム


 月の光が射し込む部屋で、夜風を感じながらも俺は目を覚ました。

 目覚めて起きた瞬間、襲ってきたのは異常な疲労。あまりにも体が重く、指一本すら今は動かせない。それに疲労だけではなく、筋肉痛にでもなっているのか全身が滅茶苦茶に痛い。


「……アルス、夜だよ? そろそろ起きる」


「待って、起きたから……揺らすな、まじで痛い」


 そんな俺の状態を無視して、誰かが俺の事を揺らしてくる。 

 誰だろうと思う暇はなく、体が痛すぎるせいでとりあえず止めてと抗議することしか出来ない。


「むぅせっかくの再会なのにその第一声は改めるべき」


 ……妙に聞き覚えのあるその声。

 前世で何度も戦いと共にした誰かの声が徐々に頭に入ってきて、それを認識した瞬間に俺は飛び起きた。


「え、は? って痛った!?」


「ばかアルス、ちょっと待って治すから」


 だけ無理矢理起きたせいで、痛みが尋常じゃなく……そのまま俺は悶えてしまう。

 そんな俺を見る彼女は呆れたような声を出したかと思えば、少し笑い回復魔法をかけてくれた。


「……助かる」


「相棒だから当然」


 ベッドの上、俺は横にいる彼女を見た。

 銀の髪に黄金の瞳、幻想的とすら思える薄い炎のような翼が生えた黒い角を持つ少女。昔と変わらない銀のドレスを纏うその姿に安心感すら覚えながらも、俺は彼女に声をかける。


「えっと……久しぶりだな、グラム」


 せっかくの再会なのに、気の利いたことなど言えない俺はそんな風にしか声をかける事が出来なかった。気まずいし、何より彼女に会えるなんて思ってなかったからこそ……何というか声をかけづらい。


「ふふ……うん、三百年ぶり。元気そうだね、アルス」


 でも、生涯を共にした相棒の彼女は昔みたいに笑って、俺の手を取ってきた。

 それが気恥ずかしくて顔を背けてしまったが、いつまでもそうしているわけにも行かないのでどうして彼女がいるのかを聞くことにする。


「なぁグラム、お前どうしてここにいるんだ?」


「アルスが呼んだからでしょ? ほらワイバーン倒す時」


「あー……そういや、呼んだな」


 確かに俺は彼女を呼んで戦ったのだが……思えばあれは賭けだった気がする。

 聖剣と呼ばれる彼女を俺は死ぬ間際に最初出会った場所に戻した事を覚えているし、一応誰にも使われないように封印した筈なのだ。

 召喚魔法で呼べたから良い物の、あれで来なかった場合は拳で戦う必要があったし……来てくれて本当に助かったけど。


「よく来てくれたな」


 記憶があるとは言え、体が別の俺の元によくこれたなと思う。


「そんなの当然、相棒だもん」


「……流石グラム」


「ふふん、もっと褒めていいよ?」


「……恥ずかしいからいいや」


「変わらないね、アルスは」

 

 微笑み……そして彼女は立ち上がる。

 そしてくるりとその場で回って、


「で、どうアルス? 私だよ?」


「どうって聞かれても、グラムとしか言えないぞ?」


「………………そこは変わっててほしかった」


「何がだよ……」


 ……彼女が何を求めてるのか一切分からず首を傾げれば、相棒のグラムはがっくりと項垂れる。悪いことをしたと思うが、何を言えばいいのかがマジで分からなかったので許して欲しい。


「……起きてるかアルマ? 声が聞こえるが」

 

「あ、ちょ……グラムちょっと戻ってくれ」


「ん、分かったまた後でね」


 ディオナ団長の声が急に聞こえ、俺は慌ててグラムにそう頼んだ。名残惜しそうにだが、俺の頼みを聞いてくれたのかそのまま彼女の姿がすっと消える。

 すると少ししてから扉が開かれて、団長が部屋に入ってきた。


「……起きてるかアルマ」


「起きてるよ、何の用だ?」


「安否確認だ……珍しくお前が倒れて運ばれてきたのだからな」


「…………心配かけた、よな?」


「あぁ、ルナなど半日看病してたぞ? 他の団員もお前が倒れたと聞き慌てていた」


「……悪いことにしたな、あとで皆に飯でもおごるわ」


「そうしてやれ、それで……何があったんだ?」


 聞かれてしまったので少し濁しながらも、俺はワイバーンに遭遇してそれをなんとか倒したことを伝えた。その際に剣を駄目にしたことを謝ったのだが、


「お前は馬鹿か? お前が生きているのならいい、大事な団員と剣一本が同価値な訳ないだろう?」


「……悪い、変なこと言ったわ」


「常日頃から言ってるが、お前は自分を大事にしろ――今回も何故騎士団の者を呼ばなかったんだ?」


「森焼けたら不味いだろ、それに手負いだったから勝てると思ったし」 


「はぁ、相変わらずだなお前は……運んでくれた冒険者達に聞いたが、一人で戦ったそうだな」


「…………あれ、これ長い説教か?」


「あぁ当たりだ。丁度動けないからな普段の事を言わせろ」


 それから約三十分、俺は彼女にいつもの態度を注意をされて……後は小言を沢山言われて疲れ切った段階で解放された。


「……本当にお前が生きてて良かった」


「ん、なんか言ったか?」


「なんでもない……とにかく明日は絶対安静だ帰ってもいいが、勝手に仕事したりしたら――分かっているな?」


「了解団長……明日は休むわ」


 そうして彼女が出て行った段階で、俺は一度息を吐き心配かけたことを後悔した。

 こういう空気は苦手だし……何より後が気まずい。

 そんな事を考えていると再びグラムが俺の前に姿を現して……。


「ねぇアルス、あの娘ってノアの子孫だよね?」


「……ディオナ団長はこの国の姫だし、そうだな」


「凄いね、ノアの子孫なのにおっぱい大きかったよ?」


「…………変わらないな、グラム」


「だって、違和感凄くて」


 遠い記憶、ノアの胸をたまに弄って……追いかけ回されていた相棒の姿を思い返しながらも俺は変わってないグラムの姿に安堵して、そのまま横になった。


「とにかくいったん寝るわ、また明日……グラム」


「うん……お休み、これからよろしくね――アルマ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍殺しのブラックヒストリア~世界を救った俺の英雄譚がどこからどう見ても黒歴史な件について~ 鬼怒藍落 @tawasigurimu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ