第一話 はじまり
入学式……
晴れ晴れとした日々の始まり。新たな友、異性との出会い。これからたくさんの素晴らしい経験が待っている……
なんてキャッチフレーズはとても嫌いだ。
人は出会いと別れを繰り返して成長するなんて言うが、これは一個人にしか当てはまらない至極偏った意見に思う。僕は別段出会いはそんなになくてもいいから別れもなくていいと思う。
小学生の時は中学生はもっと楽しいと言われ、中学生の時は高校生はもっと楽しいと言われる。
じゃあ、もし中学生の時に人生にとって特別な友達が出来たとしたら?
今この時点で確定的に言えるわけじゃないけれど、それに近い何かを感じたとしたら?
もしそうなら、高校生活が今まで以上に楽しくなるのだろうか?
もちろんそれなりに楽しいのかもしれない。高校になれば受験をするわけだから、周りの学力も似たり寄ったりだ。ここ進学校では授業中に立ち回るようなやつなんてそうそういないだろう。話も合う子が多いかもしれない。
けど、それが中学生活を超えるかどうかはまた別の話だ。
僕は中学校でそれなりには賢かった。常に学年ではトップ5に入っていたし、勉強を教えてほしいっていてくる子も少なくなかった。早い話、僕にとってその優越感は気持ちがよかった。
みんながいじりやすいようなポイントを作ったり、毒舌キャラでみんなを笑わせたりもした。
一対一ならともかく、複数人と上手く会話をするには埋もれないために面白いことを言わないといけない。毒舌キャラは言いすぎる心配をしないといけなかったが、人をいじれば笑いがとれる。その点で受けはよかった。
もちろん本来の僕は根暗だし陰キャだし、必要最低限の交流しかしたくなかった。
でもやっぱりそれでは外ではつまらない。だからといって友達を下に見ていたわけでもなかったし、めんどくさいと思って絡んでいたわけでもない。
ただただあの気の知れた友達との日々が楽しかった。
だけどもちろん人間関係が違えば通じるネタも違ってくる。世の中には「おまえバカだなあ」と言って怒る人と怒らない人がいる。
そんなことで怒るなよと思うが、「そんなこと」かどうか決めるのは自分ではなく相手だ。噂に聞けば、世の中にはおばちゃんと呼ばれて怒る人もいるだとか。
「憂鬱だ……」
僕はつい呟いてしまった。
「あんた、またそんなこと言ってんの」
僕の母は苦笑しながらそう言った。なにやら僕は中学校の入学式の時もこんなことを言っていたらしい。
まあ結果的に中学校はとても楽しかったわけだが、それはあくまで結果論だ。
1つ良かった点は、幼稚園からの幼馴染が高校も同じなことだ。クラスは離れてしまったが、もしぼっちになった時はあいつを頼ることにしよう……
(あいつにも友達関係があるだろ?あいつに頼りっぱなしでいいのか?)
そんな心の声が聞こえてきたような気もするが、気にしない気にしない。
人間誰だって1人では生きていけないだろ?
◇◆◇
「えーっと…… 確か6組の12番だから……」
式場のドアが開いたので、僕は自分の席を探す。
この高校は1学年が40人×9組の総勢360人で成り立っているらしい。同級生が359人もいるなんて、なんというか慣れないものだ。
おそらく僕が関わることになるのはこのうち50人もいるかいないかだろうな……
でもそう考えれば小学生の時に歌わされた「友達100人できるかな」はなんだったんだろうか。
今ならわかる。100人もできるわけないだろうよ。
なんてまた卑屈なことを考えているうちに自分の席を発見した。
隣の片方側は通路になっていて、もう片方には短髪長身でいかにも爽やかそうな男が座っていた。
人のことを見た目で判断してはいけないなどとよく言ったものだが、明らかにチャラそうなオーラが出ている男だ。僕とは相容れない人間な気がしてならない。
僕はとりあえず見ないようにして隣の席に座った。
「ガヤガヤ……」
「ボソボソ……」
ふと周りを見渡すと、すでにお互いに話している人たちが何人かいた。聞き耳を立ててみると、自己紹介、好きなこと、部活やらの話で盛り上がっていた。
そんなにすぐ仲良くなれるのが羨ましいというか、妬ましいというか。そもそも初対面でそんなに話すことがあるのか?みんなどうせ他人のことなんかあんまり興味ないくせに。
「………」
しかしまあ、いくらあまり交流したくないとはいえ僕も高校万年ぼっちは嫌なわけで。でも他の人から話しかけてくれるのを待つのもなかなか博打になってくる。僕には片隣にしか人がいないから、今話しかけるべき人は最初から決まっているわけだ。
(やっぱりこの男に話しかけるしかないか……)
まだ隣が女子でなかっただけマシな方だ。ほんとに女子は何を話せばいいのかわからない。笑いのツボも話題も全然違う生き物だと思う。
もう一度言うが、僕は交流できないのではない。交流しないのだ。
果たしてこの男は僕にマッチする相手なのだろうか。僕は目が合った瞬間を狙って言葉を発した。
「初めまして、僕は神代葵。よろしく」
一途な男子は今日も君想ふ 東雲朱音 @rabukomedaisuki
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