幕末って……そりゃないよぉ!
ふもと かかし
幕末って……そりゃないよぉ!
僕は今、変わった格好をした見知らぬ男に、スタンガンの様な物を突きつけられている。
「さあ、そろそろ何処にするか決まったか」
「じゃ、じゃあ幕末で」
僕は観念して、この地で生きていくことを諦めた。そして、これから先を生きる地として幕末を選んだ。
歴史オタクの僕が、特に好きな時代である。新選組や維新の志士達にも好きな人物が大勢いるし、何より一番興味があるのだ。
「じゃあ、さよならだ。悪いな、これも未来の世界の為だ」
『バチバチバチ』
電流が放電する嫌な音が響くと、僕は気を失った。
〜〜〜
目を覚ました僕の目に、一面の緑が飛び込む。周囲を見渡しても、現代科学の恩恵を受けた物が何一つ見当たらない。
「本当に幕末に来たのか? いや、まだ郊外の森の中ってオチかもしれない」
僕は一先ず森を出ようと、彷徨いながら今朝の出来事を思い返す。
〜〜〜
僕はいつも通りに、朝起きて大学へ向かっていた。電車に乗り、大学の最寄りの駅で降りるまでは、日常そのものだったのだ。
「君が斎藤慎吾くんだね」
「はい?」
突然、近未来風の服を着た男に呼び止められるまでは、だが。
「僕は君を抹殺しに未来からやってきた」
「はい?」
どうやら、ちょっとおかしい人みたいだ。
「君の存在が、僕らの時代で人類滅亡の危機を招いてしまうんだ。今の君には何の罪もないから心苦しいけれど、これも人類の為。わかってくれ」
「はい? ま、待ってくれよ!」
変質者は、僕に向かい銃を構えた。僕は顔面蒼白で、言われてもいないのに手を上げる。
「止めてくれないでしょうか」
ダメ元で懇願した。
「そうだな、非の無い人を殺すのも後味が悪い……では、君を更に過去の時代に飛ばすことにする。過去刑、この時代の人にわかり易く言うのなら、時空追放かな」
そうして、冒頭に繋がるのであった。
〜〜〜
そんなことを思い出していたら、森が切れて人工物が目に入って来る。
「畑に茅葺屋根の家……見渡す限り電線は見当たらない」
本当に過去の世界に来てしまったようで、テンションが上がってきた!
「済みません! 今って何年でしたっけ?」
「なんだぁ、おめえは? 今か? えっと、確か元亀二年だぁ」
そっか、和暦か。当たり前だよな。元亀二年って比叡山焼き討ちか。で、四年に義昭追放だったな……。
「幕末って、足利かよぉ!」
僕の叫びを飲み込んだ青空は、どこまでも澄んでいた。
その後、僕の名前が勘違いを呼び大騒動になるのは、また別のお話である。
幕末って……そりゃないよぉ! ふもと かかし @humoto_kakashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます