第16話


─────3年後。


『新人賞を見事獲得したのは、ペンネーム、夜櫻陽向さんです!おめでとうございます!』

たくさんのフラッシュと拍手の中、僕は指示されるまま高校の制服でステージに登壇した。

『異例の高校生での受賞!夜櫻さん、今の心境をお聞かせ願えますか?』

「…はい、そうですね。」

マイクを受け取りながら僕は話す。

「あまりに王道すぎる作品ですが、僕はこの作品のヒロインに、救われました。」

『救われた、といいますと?』

「何度も、僕は自信の無さから書くのを辞めたくなりました。でも、そんなとき、ヒロインの咲夜は僕の心にこう言うんです。」


────本当にやりたいこと、やろうよ!


『そうなんですね。一般投票のコメントでも、底抜けに明るいのに、何処か寂しそうなヒロインに救われた。というものをたくさん見かけましたね。』

「…ありがとうございます。」

『それでは、彼にもう一度大きな拍手をお願いいたします!』

会場がもう一度大きな拍手に包まれた。


 当然、あそこまで目立ってしまえば、両親や、兄さんにも僕の受賞は知られてしまうわけで。

「…蒼空、お前、小説受賞したんだってな。」

「あ、…父さん、その。」

「太陽から聞いたぞ、すごいじゃないか。」

予想しなかった言葉と共に、頭に掌の感触が伝わってくる。それは、物心がついて以来、撫でられることのなかった父さんの手で。

「母さんも、褒めてたぞ。」

そう言って渡されたのは、ちょうど今日から発売された僕の本。

 ブブッと、ポケットに入れたスマホが振動する。兄さんからのメールだった。

『いいタイトルだ。俺の友達にも自慢する(笑)』

僕の本、その題名は。


──────君と僕とひと夏の記憶。

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君と僕とひと夏の記憶 夕凪 @matu_kaze

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