第十話 最強という事実
「あたり、かな?」
シトリーが薄ら笑いながら、そう尋ねる、まぁ返答は期待していないと思うが
沈黙の時が流れる、この件について話すつもりはないようだ
この空気は、教会での授業でよくある質疑応答の時間の沈黙によく似ている
誰が話し出すのか、何を質問するのか、それとも質問なんてないのか
あの少し張り詰めた空間が、とても嫌なのは俺だけだろうか
数秒後、そんな考えも、消える事となる、オスカーが口を開いた、からだ
「最近、いや晩年になって気づいたんだが―――」
「どうも、俺には油断する癖があるらしい、大体負けるのはそれが理由だ」
「俺からしたら無敗伝説なんて築くのには興味がねぇから、どうでもよかった」
「死ななければいいから」
「そんなことを考えてる時、負けるのに死なねぇのはなんでなんだろうってふと思ったんだ」
「だが、いくら考えてもその理由が分かんねぇ」
「けど、今、分かったよ」
「I'm the strongest(俺は最強だ)」
オスカーが嘲笑いながら、そう言った
そして、その瞬間、さっきの沈黙の時間の嫌な気分なんて埃のように感じるくらいの
寒気と殺意を味わった、そして、全てが吹き飛んだ
「不死身と最強、本気で殺りあえば、一体どっちが死ぬのかな」
そう言いながら、オスカーは口にくわえたタバコに火をつけた
その時のオスカーの表情はとても狂気に満ちていた
「ゼパル」
その声に導かれるように、シトリーの方を見た
すると、シトリーはオスカーを指差して、こう言った
「オスカーは、君より筋がいいよ」
その言葉を聞いて、俺は少し拍子抜ける、肩の力が抜ける
「しっかりと学んだ少年より、なんとなくで習得した爺の方が強い」
「これだから、聖術は面白い」
シトリーは笑いながら、そう言った
そして、それを聞いたオスカーも笑ってた
ああ、俺が聖術の真髄を扱う日は来ないな、と、その瞬間、確信した
「さて、じゃあ殺ろうか」
オスカーがそう言って、刀に手をかけ、構える
その構え、だけで身の毛がよだつ、全神経の全細胞が俺に逃げろと言っている
だが、俺逃げれない
シトリーは逃げないから、逃げるとか負けるとかを一番嫌うシトリーは
シトリーが逃げないのなら、俺も当然、逃げれない
それはあまりにも恰好悪いだろう?
だから、俺は逃げない
「聖纏―――」
「え?殺らないよ?」
シトリーが当たり前のようにそう言った
「は?」
俺の口から思わず腑抜けた猫のような声が出た
予想外の方向から放たれた右ストレートは俺の頬をぶち抜いた
魔術とやらの可能性は止まる事を知らない 孤宵 @musubime_koyoi
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