第九話 ノーランドとやらの可能性

「やあ、おはよう」


目を開く、開かれる、少し窮屈な雰囲気を感じ


今、自分が置かれている状況を理解する


「最悪な目覚めだな」


げんなりとした表情で、オスカーはそう呟く


「最高だよ、僕にとっては、ね」


「あんな形で勝ったのに、か?」


オスカーがシトリーではなく、俺の方を見て、そう言う


俺は少し、気まずくなって目を背ける


「勝利は、その言葉の意味通り、勝利さ」


「それも、そうだな」


オスカーは少し俯く、なんだか、少し拍子抜けした気分だ


「で?なんだ、何が聞きたい」


オスカーはすぐに顔を上げ、シトリーの眼を見てそう言った


それを聞いて、俺は


ああ、これをすぐに理解できるってことは、本当に俺とは住む世界が違うんだな、と


少し、思った


「ノートリアス・ノーランド・ノースサイエント事件」


「その真相、だよ」


「真相?その事件の名を知るのなら、真相は知っているだろう?」


「大量虐殺、ノースサイエント地区に住んでいた、ほとんどの人間が殺された」


「ただ、それだけ」


「いいや、違うね、この事件には一つ不可解な点があるんだ」


「軍は気にも留めなかったけど―――」


「軍が気にしなかったのなら、お前さんの勝手な妄想では?」


「いいや、違う、気にしなかったのは当時の軍、今の軍じゃない」


「何が言いたい」


オスカーの声色が少し、変わる


先ほどの軽い口調とは打って変わって、重い真剣な口調に変わる


「当時の軍は口止めされた、いや、軍の方から関わるのを辞めたのかな?」


「あまりにも不可解で、事件の真相に近づきすぎているとしてね」


「そりゃあそうだ、大量虐殺事件で、『死体が一つも出ていない』となれば」


「その死体、いや、人は、何に使ったのかな?」


そうシトリーが尋ねると、オスカーの顔はとても険しい表情になっていた


「最初は聖術での可能性を追ってたんだ、だけど歴史上それを実現できたのは、原初の聖術使い、女神以外にいなかった、僕は人間だ、神ではない」


「そこで、聖術の可能性の限界を感じたんだ、聖術は本人の性格や嗜好に大きく影響される、時期や知識の量も、ね、だから聖術で実現するのは諦めた、ただ、実現することを諦めたわけじゃない」


「魔術の可能性を知ったんだ、魔術の原則は等価交換、天秤が釣り合えば何でも為せる、誰でもやろうと思えば、なんでもできる、素晴らしいじゃあないか、面白さは聖術だが、正確さで言えば魔術だ」


「ところで、僕が何を言いたいか、分かるかい?それの実現は、あくまで聖術だと、女神以外成し遂げていない、ただ、あの本には書いてあった、それを昔々、魔術で成し遂げた一族がいると」


シトリーが調子づいて行くと共にオスカー、彼の表所はみるみるうちに悪化する


「あたり、かな?」


オスカーの表情、それが、この事件に何か裏、隠された事実がある事


そして、『死体が一つも出ていない』という事実が


その事件の真相にとても深く関わっている物だという事を表していた―――

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