第八話 聖術とやらの可能性
「どんな術を使ったのか知らねぇが不死身かよ」
いくら斬っても斬っても、倒れない、死なないシトリーに対して
オスカーが愚痴のようにそう吐く
「術?何を言っているんだ?僕が死ぬわけないじゃないか」
「人は死ぬぞ」
「I won't die(僕は死なない)」
話が通じねぇ、だがこいつが死なないっていうのは事実らしい
確かに斬った、その感触、間違えるわけがない
「派手に殺ろうぞ」
そう言ってから、数秒、シトリーの体に何千もの刃を浴びせた
だが、シトリ―は全く動かない、動揺が全く顔に出ない
まるで、痛みを感じない人形みたいに
有り得ない、ん?有り得ない?
そういう―――
「なぁシトリー、昔、ある奇妙な術を使う男と戦ったことがあってな、その男が教えてくれた」
その奇妙な術の仕組みについて―――
「聖術とは何か?」ですか
難しい質問をしますね
そうですね、まず、聖術の始まりから話しましょうか
『聖術とやらの可能性』
昔々ある所に、一人の少女がいました
その少女は神という存在を信じ崇めていました
それはそれは熱心な信徒だったそうです
ですが、ある時、少女が教会に行っていた、ある夜の事でした
彼女の家に盗賊が入り
母親と父親、そして妹が殺されてしまいました
少女が帰った時にはもぬけの殻
ただ三つの死骸が捨てられているだけだったそうです
その事件から、少女はある疑問を抱くようになりました
「神は何故、私たちを救ってくれないのか」
神が存在するのに、なぜ私たちは不幸なのか
神が存在するのに、なぜこんなにも世界は腐っているのか
神が存在するのならば、私たちを救ってくれるのではないか
私たちが救われないという事は、神は存在しないのではないか、と
少女は迷い、苦しみました
今のまま、神を信じ続けていいのか、と
何もせず、ただ神に
少女は思考に没頭しました
部屋に引きこもり、飲まず食わず、考える事だけにすべてを捧げました
そして、ちょうど引きこもって6日経った、ある日
少女は部屋から出て、こう言いました
『
と、その言葉を耳にした、教会は神を騙る者がいるとして
少女を処刑しました
ですが、その処刑は失敗に終わったのです
少女が死ななかった、から
首を切っても、磔にしても、燃やしても
少女は涼しい顔のまま、佇んでいました
そして、言いました
『
と、そう、この神を名乗る不死身の少女
彼女こそが歴史上初めて、原初の聖術使い、です―――
何を言っているのか理解できない、というような顔ですね
これは事実ですよ、本当にあった話です
聖術は夢を現実にする事ができる、その『可能性』を秘めているのです
夢というのは少し不適切でしたね、要するに他人からしたら有り得ない事
それを、いとも当然に為す術、です
まぁその聖術を術と捉えた時点で、もうその聖術は使えません
聖術は自分の手足のように、自分の中で当たり前の事実でないといけませんから
『
『I won't die(僕は死なない)』と本気で思い込めば、それも事実に
もっとも、自分は死なないなんて本気で思えるほど
自信がある人を私は今までの人生で一人しか知りませんがね―――
「本気で思えば叶う、素敵な事じゃあねぇか」
「だが、相手が悪かったな、シトリー」
「オスカー・ノーランド、俺が斬れぬ物など無い」
俺はそう言って、刀を抜刀し、一瞬でシトリーに対して一太刀浴びせる
その一太刀を受け、シトリーは遂に倒れる
「死なぬのなら、死ぬまで斬ればいい」
「と、馬鹿脳筋なら言うじゃろうな」
「死なぬのなら、動けぬように斬ればいい」
「さすれば、死んだも同然」
「簡単な話、体を動かす為に大切な神経を斬った」
ただそれだけ、死んでしまえば、恐らく再生する
シトリーの聖術は死なない様にするだけ、だからだ
それが今までので理解できた
だから、死なない様に、神経だけを斬った
そして、それをシトリーは理解した
その結果が、今目の前で動けずにいるシトリーである
「知らないね、僕の体が動かないなんて―――」
シトリーがそう言いながら、立ち上がろうとした時、また俺は一太刀浴びせる
「声帯も斬った、喋る事はできん」
シトリーの声が途切れる、だがまだ手が少し、動いている
「頭では理解できているのに、まだ動くか」
「もう一度、言う、お前さんの腕はもう動かない」
俺はそう言って、シトリーの手を足で踏みつける
そこで、シトリーの手が止まる
それで俺は勝利を確信する
「なかなか、歯ごたえがあった、儂にここまでやらせるとは」
「生かしてやりたいところだが―――」
「人を殺す覚悟を語った手前、適切に処理させて頂こう」
「敬意を表する、お前さんの覚悟に」
儂がそう言って、シトリーの顔を見た時、どこか笑っている様な表情をしている事に気づく
そして、口パクで何かを伝えようとしている事に気づく
「
最初の言葉、それを聞き返すと、シトリ―はすぐに口を開く
「
それを見て、なにか嫌な予感がして、振り返る
いや、振り返ろうとして、途切れる、意識が
恐らく、鉄の棒、それが頭を打つ
『
その言葉が意識が薄れていく、暗闇の中で、確かに光り輝いていた
「これで、良いのか?」
僕の姿を上から見る、ゼパルが左腕で汗を拭いながらそう言った―――
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