第4話 失敗

 5歳になった。おめでとう俺!

 そして遂に後妻に皆様待望の男児が生まれた。母子ともに健康で。


 親父殿も館の従業員も一同、喜びに打ち震えております。今日は誕生を祝して盛大にお祝いをするらしいです。俺は呼ばれないから関係無いけどね。


 これで目出度く俺もお払い箱となる訳だ。


 ここに居られる時間は残りあと僅か。そう思い、『収納』の中身を頭の中で確認する。本当『収納』の魔法が使えて良かったよ。それ以外の魔法も着々と習得出来たし。


 厨房から失敬して少しずつ蓄えた食料や服、カトラリーといつまで使えるか分からない欠けた食器、それに使い古されて廃棄予定だった剣と防具。無くなっても誰も気にしない、気付かれない物を必死に集めた。


 そしてこの屋敷には、貴族らしくちゃんとした騎士部隊があった。剣術や体術、攻撃魔法は、図書室から見えた訓練場の様子を見て『学習』し、自分の部屋に戻って出来る限りの練習を続けて来た。魔法以外も『学習』が出来るって知ったのも、騎士達の訓練を見れたからだ。


 その練習場には時々、冒険者らしき人達が来て、屋敷の騎士達と実践さながらの合同訓練もしていたんだ。これを見て、外に出されたら対人戦も想定しておかなきゃダメなんだと事前に覚悟が出来て助かった。それに、冒険者って戦闘スタイルも全然違うんだよな。


 あとは、屋敷の維持管理や品物の補充・修繕の為に定期的に職人や商人が来ていた。


 その人達は、俺に対しても比較的当たりが弱く、どちらかと言うと同情的だった。お陰で色々と貰ったり教えてくれたりと、非常に助かる存在。


 ただ笑えるのが、屋敷の中でも家の外の人間との接触は黙認されていた所かな。俺にはそれがお似合いだとでも言うかの様だ。


 あーーもう!ここにいると卑屈な思考ばかりが巡って来る。本当に良くない傾向だよ。でも改善は家出した後じゃなきゃ無理だぁ。


 まあ、そう思われていたとしても、街へ出た時に多少なりとも顔見知りがいた方が安心出来ると思って、頑張って歩き回った。

 

 でも、そう長くは親父殿が治めるこの土地に居るつもりは無い。準備が出来次第、なる早で離れる予定だ。どうせ碌な事にならないと思ってますんでねー。



 そこで問題になるのが、俺の戸籍に相当する身分証明。貴族としての証明書なんか貰えるはずも無いし、そうなると次点で得られる可能性があるのは冒険者登録となる。なので合同訓練の休憩時を見計らっては冒険者達と仲良くなる為に、足繁く通って話を聞いていた。


 来ていた冒険者達も気さくな良い人が多く、特に一人の冒険者の人には、俺の質問になんでも答えて貰えた。索敵や狩った獲物をマジックバックから出して、解体のデモンストレーションをしてくれた時には、本当に涙が出るかと思ったよ。ともかく、これで身分証確保の目処も立ったぞ。


 あとは、何時でもこの館を出ていける。出来れば手持ちの金が全く無いから少しは欲しいけど、どうだろう?くれるかな?

 無理か……うん無理だな。それならもっとマシな飯が出てるわ!期待値は命の危険を考慮するとマイナスですね。親父殿も含めて俺に関心のある人なんかこの館には居ないし。


 それならもう出て行こうかな〜。いちいち追い出される為の胸糞イベントを体験する必要は無いだろ?それにお前等が俺にヘイトを向けている以上に、俺のお前等に対するヘイトは年の数だけ積み上げられてるからな!


 そう決めると俺は図書室から自分の部屋に戻り、最終準備を整えた。2度と戻りたく無いから不備の無いようにせねば!


 脱出経路はもう決めてある。

 あとは実行するのみ!



 見つからない様、慎重に館の中を移動し外へと出て行った。

 そのまま庭の生け垣に隠れながら進んで、塀際に生えてる木の幹から枝を掴んで登る。


 これを超えれば敷地外に出られる。


 冒険者さんに教えて貰った『索敵』を使って周囲を確認しつつ、なんとか外へと降り立った。



「(やった!これで俺は自由だ。あんなクソ共とはこれでおさらばだ!絶対に捕まるもんか!)」



 緊張で早鐘を打つ心臓の音が、胸だけで無く手や頭にまで響いている。

 急ぎたいけど、俺の体力は通常の5歳児よりも少ないはずだ。焦らず、無理せず、でも出来るだけ早くこの場所から遠くへ逃げよう。


 落ち着くまでの少しの間、館の裏手に広がる雑木林に入って姿を隠した。


 よし、呼吸は落ち着いた。どんどん行くぞ!

 そうして、いざ進もうと立ち上がった瞬間、背後から不気味な声が聞こえた。



「見ぃぃぃつけたぁぁぁ〜!!!」

「!!!!!」



 しまった!疲れて索敵が切れてたんだ!!


 驚いて振り返った途端、シュッと風切り音がした。


 そこには剣を持った男が、微笑みをたたえて立っていた。

 その剣先からは血の雫がポタリポタリと滴り落ちる。


 ああ……俺は逃げられなかったのか………。

 せっかく命を賭して俺を生んでくれたのに、長生き出来なかったよ……マッマ…ごめ……んなさ……い………



 倒れる間際、首に掛けていたペンダントを掴んで、力を振り絞り『収納』に入れた。


 俺の意識はそこで途絶え、暗闇へと落ちる。



 今回も……短い人生だったな………もう勘弁してくれ…………もう嫌だ!




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失敗続きの転生に先はあるのか? いずいし @isuzu15

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