外伝③ 婚約者達の想い(奈都姫編)

「「ただいま~。」」

「あらぁ,おかえりない~。あれ?奈都姫一人?」

「シンはひかりちゃんを送ってくるから,下に戻ってきたら連絡するって。」


 3人揃って家に戻ると,キッチンに居たお義母さんが出迎えてくれた。


 そして,先程までシンの背中で寝ていた梨久も家に着くとまた燥ぎだしていた。


「梨央,梨久,楽しんできた?」

「うん!すごくたのしかったー!」

「お母さん,お父さんは?」

「さっき帰って来たところよ~。今はリビングでテレビでも見ているわ。」

「おとうさん,かえってるの!?」


 お義母さんからそう聞くと,梨久は靴を脱ぎ棄てて,リビングまで走って行った。


「こらぁ,梨久!!靴は揃えない駄目でしょう!!」

「お父さんに会えないって昨日から駄々をこねていたから,仕方ないと思うよ。」

「ふふ,あの子は本当に美奈都さんが大好きねぇ。」


 脱ぎ捨ててられた靴を直す梨央を見て,溜息を吐いてしまった。


 案の定,二人と一緒にリビングへ行くと,余程会いたかったのか,ソファーに深く座っていた父に梨久は思いっきり抱き着いていた。


「お父さん,お帰りなさい。」

「ん?ただいま,奈都姫。」


 梨久の頭を撫でながら父は私に笑顔を向けた。堂顔でにこやかな笑みを絶やさない父。信じられないかもしれないが,これで県警の凄腕警部でもあるのだ。


 しかも,もうすぐ40歳過ぎになるのに見た目は学生にしか見えない若さなのだ。


 私と並んで歩いていても年の離れた兄と間違えられることもあり,未だに若い女性から声を掛けられてもいるらしい。


「それで,奈都姫。シン君達は元気にしているかい?」

「元気にしているわよ。お父さんに今度,挨拶に来たいって。」

「そうか。だったら,近く日程を調整しないと駄目かな。奈都姫との婚約のこともそうだけど,色々と聞きたいこともあるから。」


 色々と聞きたいこと……。おそらく,私と婚約しても大丈夫なのかということだ。


 あの事件でお父さんは被害者の方々から色々と非難を浴びてしまった。だが,それを自分の罪として受け入れたのは事実なのだ。


 例え,自分が悪くなくても,と関係を持ってしまったのならその責任の一端は自分が背負わなくてならないと考えているのだ。


 だからこそ,私は未だにあの人のことを絶対に許すことができなかった。


「姉さん,顔が強張っているよ?」

「おねえちゃん,こわい……。」


 どうやら,二人を怖がらせてしまったようだ。何,やっているんだろう……。


 私は申し訳なさそうに,梨久の頭を撫でて二人に謝罪した。 


「二人とも,ごめんなさい。あ!お父さん,お土産があるんだけど。」

「お土産?」

「そそ。シンから渡しておいてって。……はい,どうぞ。」


 そう言って,父親にワインが入った箱を渡した。だが,やはりというか,その箱の銘柄を見ると,父はソファーからずり落ちそうになっていた。


「ま,また,とんでもない物をシン君から頂いてきたんだね。どうしたんだい?」

「ビンゴゲーム大会の景品が余ったから持って帰っていいって。あと,お義母さん。お肉もあるけど,晩御飯に食べる?」

「あら~,こんな上等なお肉いいのかしら。今度,シン君にお礼を言わないと。」


 パーティーで余った神戸牛を見て満面の笑みを浮かべていたが,チラッとソファーに座る父を見ると,やはりとんでもない物ばかりなので更に顔を引き攣らせていた。


 でもね,お父さん。それ全部,じゃないのよ……。


 本命は梨久がビンゴゲームて当ててしまったとんでもない物なのよ……。


「奈都姫,こんなに貰ってもいいのかい?」

「問題ないって。それに,もうすぐしたらお父さんの誕生日でしょう?自分からの誕生日プレゼントがこんなので申し訳ないって言ってたけど。」

「……全然,申し訳なくないと思うけどね。」


 それは自分も同感だったので同じように肩を竦めた。シンの感覚ってやっぱり麻痺しているじゃないかしら。でも,家計簿付けたり,安売りのスーパーに必死になったりと主婦みたいな行動もするからよく分からないのよねぇ……。


「ちょっと早いけど,折角だから美奈都さんの誕生日も兼ねて盛大にお肉を焼いちゃおうかしら。梨央と梨久は,まだ食べられる?それから,奈都姫はどうする?」

「私は向こうに帰ったら同じのがまだあるから……。」

「まだ,たべれるー!」

「僕は少しだけなら。お母さん,焼くのもいいけど煮込むのはどう思う?」

「それなら、ビーフシチューもいいわね……。」


 親子3人で仲良くする光景を見て私と父は微笑んだ。だが,父は3人を見ると,何故か悲しそうな顔で申し訳なさそうな顔をしてしまった。


「お父さん?」

「本当に彼女,梨沙は僕に過ぎた人だと思うよ。彼女の愛した人,梨央と梨久の父親を死なせてしまったのは僕なのにね……。」

「っ……。お父さん,その話は……。」

「分かっているよ。でも,あの事件の原因を招いてしまったのは僕だよ。例え,状況が複雑に絡み合って僕達が悪くなくてもね。」


 何故,父はこうもあの事件の責任を取ろうとするのか,私にはまったく理解できなかった。まさか,未だにあの人のことを想って……。


「それよりも,奈都姫。シン君とは何処まで進んだんだい?」

「……へ?」

「だって,奈都姫はあの事件でシン君を振ったんだよ。それなのに,婚約を受け入れたってことは,何かあったって思うことが普通だと思うけど?」


 ニコニコした顔でそう言われると私は顔を真っ赤にして視線を逸らした。


 絶対に言えるわけがない。まさか,シンにあんな姿を見られた責任を取って(そういう設定)貰わないと駄目になった何て言えるわけがない!!


「……その顔を見ると,シン君に何かされたのかな?」

「ち,違うから!!」

「美奈都さん,奈都姫ったらシン君に裸を見られたんですって。」

「奈都姫の裸を?……へぇ。」

「お義母さん!?」


 何で暴露するのかな!?しかも,見られたのは裸じゃなくて下着姿なのに!!


 案の定,父は何かを考え込んだ顔をしていた。もしかして,シンのことを怒っているんじゃ……。いや,あり得ないわね。父は今までシンに怒ったことはないもの。


 いや,それは私や梨央や梨久,そして,にもだ……。


 父が唯一怒っていた時,それはあの人と喧嘩をしている時だけだった。


「今度,そのことを踏まえてもシン君に色々と聞かないと駄目になったかな。」

「うぅ~,何で言っちゃうかな……。」


 キッチンでニコニコしているお義母さんを睨んだ。私とシンが偽装婚約だってことが話しにくくなったじゃない!お義母さんは事情を知っているのに……。


「ところで,梨央はひかりちゃんとは順調なのかい?」

「!?う,うん……。今日,一緒にパーティーに行ったから。」

「そっか。彼女,楽しんでいたかい?」


 梨央は恥ずかしそうに頷いた。今の話から察するに,父は梨央とひかりちゃんのことを知っているようだ。知らなかったのは,私だけなのか……。


「梨央,どうして私だけ話してくれなかったの?」

「い,色々と事情があって言い難かったんだよ!」

「奈都姫,時が来たら教えてあげるから,梨央を怒らないで上げて。」


 父にそう言われて渋々納得した。でも,父があのような言い方をするってことは結構,込み入った話なんだろうか?


 そう考えていると,父の袖を梨久が引っ張っていた。


「ん?梨久,どうしたんだい?」

「んとね,おとうさん……これ。たんじょうびぷれぜんと!」


 梨久は例の物を父に手渡した。それを見ると,父は驚愕した顔で私を見た。


「な,奈都姫?これは……?」

「……梨久がビンゴゲームで当ててしまったのよ。一番,お高い景品を。」


 私は父が持っている数十万の腕時計を見ると,改めて自分の周りがとんでもない人達ばかりであると思い知ることになったのだった。


 うん……。やっぱり,私の周りはシンも含めて変わった人が多いわね……。

 

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瞑想が趣味な俺は幼馴染たちとの関係に迷走する 不動さん @sousisouai20240708

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