外伝② 婚約者達の想い(保衣美編)
「それじゃ,お兄ちゃん。白ちゃん達を送って来るね~。」
「おう!任せたぞ。」
お兄ちゃんに見送られて,私は白ちゃん達と共にマンションを出た。
「ほいみん,お見送りしてもらわなくても……。」
「いいのいいの。お兄ちゃんに行ってきなさいって言われたから。」
実はシロちゃん達の家は私達の住んでいる所から10分ぐらいした所にあるのだ。
あの事件が起きた以降,彼女とは親友となり,今でも頻繁に遊んでいたりもする。
「いつも妹と仲良くしてもらってすまないな,愛川。」
「いえいえ。こっちも仲良くさせて頂いておりますので。てか,拓にぃ!その呼び方はもうやめてと言っているのに!私はもう風間だよ~。」
ブ~ッと頬を膨らませて抗議すると,拓にぃと雲長先生だけでなくシロちゃんにも笑われてしまった。まあ,拓にぃがそう呼ぶのは理由があったからだ。
愛川。私の旧名は愛川保衣美。中学1年生の時にダディとマミィが再婚するまで,私とお兄ちゃんは家がお隣同士の幼馴染であった。
実は奈都姫ちゃんや静ねぇよりもお兄ちゃんと頻繁に居たと言ってもいいだろう。
当時のマミィは仕事の都合で海外に居て,滅多なことで家には帰って来ず,私は専業主夫であったお父さんとほぼ二人で暮らしていた。といっても,お父さんは投資家でもあり,今のダディとはその関係で仲が良かったようだ。
そんな理由もあって,お兄ちゃんの本当のお母さん,おばさんは私に取ってはもう一人の母親のようなものであった。家族になる前から,本当に幸せな日々であった。
だが,そんな幸せはあの事件で全てが無くなってしまった。
久しぶりにお兄ちゃんと私の家族で出かけた時に起きた事件で、私を庇ったお父さんは亡くなり,マミィは右足に銃弾を浴びて真面に歩くことができなくなった。
そして,お父さんが投資で稼いだお金はかなりの額であったためか,親戚達はお父さんの遺産を狙い、マミィにあれやこれや嫌がらせを繰り返していたのだ。
正直,私とマミィの未来は真っ暗だと思った。
だが,それもダディとの再婚で一斉に無くなったのだ。以来,私はその時から愛川ではなく風間保衣美として過ごすようになったのだ。
「だが,俺が保衣美やほいみんと言ったら変だろう?」
エレベータから降りてマンションの玄関付近で拓にぃにそう言われた。
「私は構わないよ?あ,でもお兄ちゃんが嫌がるかも……。」
「そうかな?先輩なら気にしないと思うけど……。」
「はっはっはっ,どちらかと言えば,困惑するのではないか?」
確かに,雲長先生の言う通りだ。拓にぃ見たいな堅物な人がほいみんとか呼んだら何があった?と困惑するだろう。
むしろ,学園の皆も困惑するんじゃないかと思ってしまった。
「悪いが,急に直せそうにないからな。嫌なら直すが?」
「私はどっちの呼び方でも大丈夫だよ!……今思えば,銀にぃやパパはほいみんって呼んでたね。シロちゃんのこともシロちゃんと呼んでいるし。」
「そういえば,あいつ等はそんな呼び方をしていたな……。」
銀にぃはあの見た目だから、別にいいだろう。でも,パパの見た目であの呼び方は少し違和感があるというか,周りが困惑していたと今更ながら思い出した。
それを思うと,やはり拓にぃには今までと同じ呼び方にしておいてもらおう。
「……ところで,あいつは一体,何があったんだ?」
「ふぇっ?」
「今日のビンゴゲームだ。銀が居たのもそうだが,いつもよりテンションがおかしいと思ってな。愛川は何か知っているのか?」
「う~ん,実は……。」
自分も奈都姫ちゃんからの聞いただけなので,詳しいことは分からないが,3人に説明すると,彼等は眉を顰めた。
「とんでもない奴がいるものだな。だが,それを教えてよかったのか?」
「問題ないよ。松本さんにも拓にぃ達なら教えていいって言われているから。」
個人的に言うと私は松本さんのことは結構気に入っていたりする。この間,私が勧めたアプリゲームを教えたらドハマリして今では一緒に遊んでいるぐらいだ。
やはり,ゲームは年齢や国境を越えて人を結ぶ偉大な物だ。
オタク趣味もそうだが,あれは推しによって友にもなり,敵にもなるからね。
「しかし,そういう話なら少し危ないかもしれないな……。」
「お義父さん?」
「義父さん,それってどういうことだ?」
長い顎髭を撫でながら妙に考え込んだ仕草をした雲長先生が気になった。
「先程の話から推測すると,件の男子は会社の力を使ってまで手に入れようとしたのだろう?要するに,使える手は何でも使ってくるということだ。」
そう言うと,悩んだ顔で私を見た。一体,どうしたんだろう?
「新之助が偽装婚約と知られたら,そこを突っ突かれるのではないかと思ってな。それに,保衣美君との義兄妹としての関係も。あいつの家柄のこともあるから,突っ突いてくるならそっちの方になるだろう。」
それを言われると,私は何も言えなくなってしまった。
確かに義理の兄妹で結婚してはいけないということはない。だが,世間的に見れば,兄妹で結婚することはよくないと思われることだろう。
それでも,周りのこと気にせずに,目の前の二人は恋人関係でいるのだ。
今となっては学園の皆に認められるほどに……。本当に羨ましいと思った。
「ところで,ほいみんって先輩のことを本当はどう思っているの?」
「ん?大好きだよ?」
「即答だな……。」
「まあ,3人に嘘を付いても直ぐにバレるから。」
嘘偽りなく正直に言うと苦笑されてしまった。お兄ちゃんのことが大好き。これは3人だけでなく私の周りの皆も知っていることだ。
そして,それはお兄ちゃん自身も知っていた。
だが,私とお兄ちゃんが家族になったことでその想いは終わってしまったのだ。
もう,お兄ちゃんは私のことを義妹としてか見ていないだろう。
……だけど,お兄ちゃんと違って私は未だにそのことを諦めてはいなかった。
「今回の件はチャンスだと思っているよ。マミィも応援してくれているし。」
「そういえば,あいつが愚痴を言っていたな。保奈美さんに暴露されたと。」
ダディはあまり私とお兄ちゃんがくっ付くことをよく思ってはいないようだが,マミィは私とお兄ちゃんをくっ付けようと前々から考えていたのだ。
おそらく,ダディはまた色々と丸め込まれたのだろう。可哀そうに……。
今度,戻ってきたら色々と愚痴も聞いて,甘えて上げようと思った。
「でも,そうなると問題は先輩じゃないかな?先輩ってもうほいみんのことを義妹としか見ていないんだよね?」
「そうそう。前に誘惑したらお母さんみたいに注意されただけだから。」
「も,もしかして,あれのこと?」
顔を赤くして尋ねてきた彼女を見て,やはりこの子は可愛いと思ってしまった。私が男なら絶対に手を出すのに,拓にぃはよく我慢できているなと思った。
……だが,その拓にぃはというと,何故かこめかみをヒクヒクさせて顔は笑っていたが,私を睨んでいるような気がした。
「愛川,あれを教えたのはお前なのか……。」
「あれ?……あ,もしかして,シロちゃん。拓にぃにしたのかな?」
何も言わずに彼女は顔を赤くして俯いてしまった。
前言撤回だ!結構,進んでいたよ,この二人!早速,お兄ちゃんに……。
――ガシッ
「愛川,少し向こうで話そうか?小一時間ぐらい?」
「えっ!?もしかして.私に浮気してシロちゃんのこと……。」
少しふざけ過ぎたのか,いい加減にしろ!!と怒られてしまった。
結局,3人と別れるまでの間,拓にぃにずっと説教をされ続けたのだった。
……シロちゃんも雲長先生も笑ってないで助けてよぉぉぉ!!!
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